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ありがたい反響

ありがたい反響
――亀井秀雄のチャージ(その5)――

○「テクストの無意識」の読みどころ
 今月の4日に楽天ブックスにアップした「テクストの無意識」シリーズは、発売した翌日に早速「中野重治「雨の降る品川駅」における伏字と翻訳の問題」を購入して下さる人がいて、順調に滑り出した。
 電子書籍を発行するについては、編集から表紙、宣伝まで請け負ってくれるプロの編集者(?)がいるらしいが、オピニオン・ランチャー社では何事も経験と、手作りでやってみた。その割にはうまく行ったほうかもしれない。
 ただ、宣伝が足りないのではないか、と指摘してくれる人もいる。そうかもしれない。論文のタイトルだけでは内容・特徴がなかなか伝わらない。シリーズをアップする直前、全部を読み通してくれた人が、次のように「読みどころ」をまとめてくれた。私から見ても、我が意を得た、適切な宣伝文で、「楽天ブックス亀井秀雄」に表示される表紙をクリックすれば読むことが出来るが、ここに再録させてもらう。


 
太宰治の津軽
 太宰治が、久しぶりに訪れた津軽で、故郷の良さを再発見し、ラストでは昔自分の子守をしてくれた懐かしい〈たけ〉(越野タケ)と出会う。「津軽」は、そうした心温まる回想記として読まれてきた。だが太宰は、実際には、再会したタケとほとんど一言も言葉を交わしていないという。その意味では、この作品は非常によく出来た太宰の〈創作〉と言える。
 またその一方で、この「津軽」は実は小山書店の〈新風土記叢書〉の一つであり、シリーズ本来の趣旨としては、津軽に関する地理や風土・産物・人情などを紹介する一種のガイド本となるはずであった。ではなぜ、太宰は、そのような出版社側のコンセプトを敢えてはずして、この本を、自分をめぐる故郷の人々を前景化した〈小説〉にしてしまったのか? 
 様々に起こる疑問をもとに読み解いてゆくと、このテキストの持つ意外な仕掛けや豊穣な意味が見えてくる。四十年以上にわたって表現論・テキスト論の最前線を走り続けて来た亀井秀雄が、自ら電子書籍出版社を立ち上げ世に送る〈オピニオン・ランチャー叢書〉第一弾! 

大江健三郎の『沖縄ノート』
 太平洋戦争末期に起こった、沖縄における〈集団自決〉という悲劇。大江健三郎は『沖縄ノート』の中で、自決は軍の命令のもとに行われたとし、名前は明示しないながらも、その命令を下した軍人も確かにいることを示唆していた。そのことに対し、かつて沖縄の島々に配属された守備隊長らが、人格権(名誉権)を傷つけられたと大江を告訴したが、結果は大江側の勝利となった。良識的には妥当な結果が出たように見えるこの裁判。だが、〈誰が自決命令を下したかについて、特定の個人を名指ししているような記述はない〉とされた大江のテキストの中には、ある種の巧妙なレトリックが隠されていた――?
 〈裁判〉という名の言説の絡み・もつれを読み解く事に関しては非常な粘りを見せる亀井秀雄の、〈オピニオン・ランチャー叢書〉第二弾!

中野重治「雨の降る品川駅」における伏字と翻訳の問題
 中野重治の詩「雨の降る品川駅」は、日本のプロレタリア詩の中でも最も優れた作品の一つという高い評価を得てきた。日本を逐われて父母の国へ帰る朝鮮人を品川の駅で見送る詩人の悲しみと心情の高まりが、感動的に表現されているからである。
 だが、この詩には、書かれた時代や発表された際の伏字等の違いに起因する三種類のバージョンが存在する。また、誰がその伏字を行ったか、そして戦後にどのような過程を経てそれが〈完成〉されたかについても興味深い背景がある。亀井秀雄の〈オピニオン・ランチャー叢書〉第三弾は、伏せられ、隠され、また当てはめられてゆく、〈詩の言葉〉という迷路の探求編である。

「赤い靴はいてた女の子」をめぐる言説
 野口雨情の童謡詩「赤い靴」から着想を得た銅像の建立は、本論が書かれた平成二十四年時点で、全国で十カ所に及んでいた(またちなみに、2010年・平成22年には、横浜市と姉妹都市のアメリカ・カリフォルニア州サンディエゴ市に、山下公園の少女像と同型の像が建てられた)。
 この、奇妙なほどの〈童謡の物語化〉の広がりの原因は、一つには、昭和五十三年にテレビで「赤い靴はいてた女の子」のドキュメンタリーが放映されたからであり、また、文化人類学者の山口昌男が、雨情の童謡の中から〈青い眼をした人形と赤い靴はいてた女の子〉を取り上げ、戦前の不幸な日米関係の象徴として論じたからである。結果、「赤い靴」の女の子は少女「きみ」として実話的に捉えられることとなり、“この世で一緒になれなかった可哀想な一家”の物語は、次第にリアリティをまして増殖してゆくこととなった。
 しかし、果たして雨情の童謡は、そのように〈実話読み〉すべき内容のものなのであろうか。そして、山口昌男が〈青い眼をした人形〉と〈赤い靴はいてた女の子〉を、ある意味無理にでも結びつけて論じた理由とは? 亀井秀雄の〈オピニオン・ランチャー叢書〉第四弾!

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オピニオン・ランチャー社発売成功

オピニオン・ランチャー社発売成功
――亀井秀雄のチャージ(その4)――

○出版に成功
 昨日(2月4日)、楽天ブックスの電子書籍から、私の4冊の本が無事に出版された。
 全くの素人がマニュアルを見ながら、手探りで進め、はたして上手くゆくかどうか、不安だっただけに、無事出版を確認できて、ほっと安心した。正直なところいささか疲れた。

○難点が一つ
 ただ、1点、お詫びしなければならないことがある。
 楽天ブックス電子書籍用のタブレット、Koboの使い勝手がはなはだ悪い。もちろん各ページの紙面はきれいに表示される。だが、てきぱきと次のページへ移らない。次のページへ移る操作をすると、しばらく画面が真っ白になり、壊れたのだろうか?と思い始めた頃に、ようやく次のページが表示される。
 これは、電子ブックのもとになるEpubファイルが原因である。本当は、文字の大きさも行送り・改行も、読む媒体(機械)に合わせられるリフロータイプのEpubにしたかったのだが、InDesignで作成したファイルをEpubに変換したとたん、文字の太さも行間もあちこちでイメージしていたものと異なる上に、原版ではきちんとしていたはずのローマ数字が横倒しになったりと、ひどい状態になってしまった。「これは、ひとえに、InDesignの扱いにまだ慣れていない自分の技量のせいだ」と娘は反省していたが、しかしこれを直すには、また、〈文字スタイル〉や〈段落スタイル〉の設定など、細かいところを一から見直し、手を加えてゆかねばならない。それでは、いったい出版がいつになるか、見当もつかない。
 それでも娘が工夫を重ねて、フィックス(固定レイアウト)Epubに変換し直してみたところ、何とか見た目だけは狙い通りになった。とりあえず、これでいってみようと、楽天ブックスにアップロードし、それ自体はうまくいった。ところが、上に述べたように、このタイプのEpubだと、Koboでの表示にやたらと時間がかかってしまう。これでは、よほど辛抱強い人でも、読み通す気がなくなってしまうだろう。なんとも申し訳ない。

○解決法
 ただし、解決法がないわけではない。お手元のパソコンかタブレットで「楽天Koboアプリ」を検索していただき、ダウンロードしていただければ、やや文字は小さめではあるが、普通に表示され、ページめくりにもそれほど時間はかからない。iPadのように割とパワーのあるタブレットなら、おそらく指でのピンチアウト(拡大)もスムースに出来るだろう。Koboよりも、かえってこの方が使い勝手がいいかもしれない。
 
 一方で、お手元のiPodやiPhone、スマートフォンをつかう方法もあるが、なにぶんにも画面が小さすぎる。最近のスマートフォンなら大きめに出来ていて何とかなるかもしれないが、あまりお勧めはできない。

○「縦書き」に特化したソフトを
 なぜ、こんなことになってしまったのか。たぶん電子書籍のソフトを作る人たちは、「横書き」を前提にしているからだろう。
 私たちは、当初、アマゾンのキンドル版で出版することを考えていたのだが、アマゾンはアメリカの会社だから、キンドル版向けのEpubを作るとなると、どう情報を検索してみても、こぞって、「横書きの方が作成が楽」という話になっていた。が、娘が札幌のパソコンスクールで短期の〈InDesign講座〉に通って、InDesignソフトで何とか縦書きの電子書籍を作ることができるまでになり、去年の暮れまでには「版下」が出来ていた。

 だが、キンドル・ダイレクト・パブリッシング(以下キンドル)に登録しようとしたところで、大きなつまづきが待ち構えていた。
 アマゾンはアメリカの会社なので、ただ普通に登録して出版しただけだと、日本からもアメリカからも税金を二重取りされてしまうことになり、結果、著作権料がほとんど消えてしまうことになりかねない。だから、キンドルに登録する際には、アメリカの方で免税が受けられるように書類を出さなければならないし、たいていは、アマゾンのサイトでキンドル登録をしてゆく過程で、その書類の書式もダウンロードできる仕組みになっている(ただ、その後もそれを郵送しなければならないとか、面倒な一手間二手間がまだあるが)。
 ところが、その目的の書類書式のダウンロードページに、どうしても行き着けない。

  原因は、わがオピニオン・ランチャー社が〈合同会社〉だからである。合同会社は、設立条件については比較的ハードルが低く、立ち上げやすい会社形式であるが、これは、日本の場合、普通に〈会社〉のカテゴリーの中に入る。しかし、アメリカでは、この合同会社(Limited Liability Company) は他の会社と違い、パートナーシップ(組合)と同じような扱いになるという(他にも課税方法の違いなどあるらしいが、細かいところはよくわからない)。つまり、提出する書類の方も、個人出版とも株式会社出版とも別形式になるようなのだ。
 しかし他方、こちらは日本の会社なのだから、〈日本で営業しているので免税してほしい〉という書類を第一に出さなければならない。だが、肝心のその書類がダウンロードできない。ネットを検索しても、ガイドブックの類いを読んでも、基本は〈個人出版のすすめ〉であり、そうでなければ株式会社のみを念頭においているので、合同会社のことは一言半句出てこない。困じ果ててアマゾン・ジャパンに問い合わせをしてみたが、そういう事は専門の税理士に尋ねてください、という内容の返事しか返ってこなかった。

 そこで急遽、今年に入ってから楽天ブックスに変え、こちらは日本の会社だから、条件その他の説明が分かりやすい。ただ、楽天Koboの〈ライティングライフ〉を立ち上げた人たちも、最初に念頭においていたのは「横書き」中心の表記だったのだろう。時代の趨勢は「横書き」へ向かっているという判断なのだろうが、やはり日本文、特に昔の文章の引用部は、「縦書き」でないとはなはだ読みにくいという事情がある。ルビや圏点、傍線やゴチック体なども表記には必須だ。そこで、多少高機能すぎるかも知れないソフトを使ってでも、縦書きの画面を作ることにチャレンジし、何とか成功(?)はしたわけである。
 ページめくりに、Koboタブレットの反応が鈍いのは、固定レイアウトEpubが画像に近い(つまりデータサイズが大きめ)という理由もあるのかも知れないが、以上のような「縦書き」に対応する機能がお粗末なためではないか。そんな気がしてくる。

 Koboタブレットの制作者がその種の問題に目を向けて、使いやすい対応ソフトを開発するなどの環境改良をしてくれる。そのことを切に期待している。もしそれを怠るならば、別な会社が縦書きの日本文のために機能を特化したソフトを開発し、まだまだこれから需要が増えるだろう「縦書き日本文」のマーケットを席捲することになるだろう。

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オピニオン・ランチャー社事業開始

オピニオン・ランチャー社事業開始
――亀井秀雄のチャージ(その3)――

○『増補 感性の変革』のこと
 ずいぶん長い間ご無沙汰をしてしまった。
 「オピニオン・ランチャー社」の立ち上げを報告してから、もう半年になる。「なんだ、年寄り扱いされるのがイヤで、カラ元気のホラを吹いただけなのか」。そんな印象を持たれた人も多いと思う。それはやむを得ない。

 ただ、その間全く怠けていたわけでない。ランチャー社立ち上げの報告の時もちょっと言及しておいたと思うが、ひつじ書房が一昨年の『主体と文体の歴史』に続いて、もう一冊論文集を出してくれることになった。

 内容は、『感性の変革』を核として、『感性の変革』で扱った時代の文学に関する論文15編を加えた、Ⅳ部構成の『増補 感性の変革』。
 『感性の変革』は、2002年(平成14年)、ミシガン大学が英訳本を出してくれた。そのとき私は、英語圏の読者のために、400字原稿用紙180枚近い「解説」をつけたが、その日本語文も入れてある。おかげで『主体と文体の歴史』とおなじく、550ページ近い大冊となった。

  その校正が12月初めまでかかり、それから1ヶ月ほど、骨休めのつもりでぼんやりしていたのだが、今の出版社は仕事が早い。昨年の暮れも詰まった、12月29日に再校のゲラが届いた。元日のお屠蘇もそこそこに――と言うと、やや誇張に過ぎるが――さっそく校正にかかり、漸く1月28日に終わって、ひつじ書房にお返しした。間もなく念校が始まると思うが、とにかく一息つくことができた。『増補 感性の変革』は春までには出ると思う。ぜひご一読いただきたい。

○楽天ブックス・電子書籍の出版
 さて、他方、オピニオン・ランチャー社から出す予定の電子書籍については、昨年の暮れには「テクストの無意識」と題するシリーズの4冊の版下が既に出来ていた。
 その4冊を昨日(2月1日)、楽天ブックスの電子書籍ストアにアップした。楽天の側でチェックし、問題がなければ、4日(2月)から発売される。

 当初はアマゾンのキンドル版で出すつもりで、年賀状にもそう書いたのだが、幾つかの事情があり、楽天ブックスの電子書籍で出版することにした。年賀状を受け取った方々には誤った通知をしてしまい、まことに申し訳ない。ご海容をお願いする。

 今度出版した4冊は、

 「太宰治の津軽」
 「大江健三郎の『沖縄ノート』」
 「中野重治『雨の降る品川駅』における伏字と翻訳の問題」
 「『赤い靴をはいた女の子』をめぐる言説」

『増補 感性の変革』が明治文学を中心に論じたのに対して、こちらは昭和文学を対象としており、ここ数年の間に執筆したばかりである。

  この4冊を総称して、「テクストの無意識」シリーズ。
 ヴォルフガング・イーザーが提唱した「テクストの「空所」」という概念は多くの研究成果をもたらしたが、それはあくまでも「読む行為」を解明する理論だった。
 本シリーズはそれとは違って、作者の表現操作おけるトリックやレトリックに焦点を合わせて、その表現操作にひそんでいる無意識を明らかにする。と同時に、どのような時代的な無意識を反映しているかを明らかにした。
 こちらも是非ご一読いただきたい。

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