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「中国人」は存在しない!?ーーマルクスと三浦つとむと、吉本隆明(2)

「中国人」は存在しない!?
マルクスと三浦つとむと、吉本隆明(2)

○「中国」への疑問
 インターネットの@niftyニュースが今年の7月13日(金)14時7分に配信した「サーチナ」の記事は、次のように始まっている。
《引用》
 
中国国際放送局は12日、中国の漁業巡視船が11日未明に尖閣諸島の魚釣島(中国名=釣魚島)付近を巡航中に日本の巡視船から何度も干渉を受け、中国側が「ここは中国管轄海域だ、中国語で話せ」と日本側に伝えたと報じた。(編輯担当:柳川俊之)

 最近この種の記事をよく見かけるが、どうもこの「中国」が紛らわしい。翻訳者が「中華人民共和国」という国名を、便宜的に「中国」の翻訳したのかもしれないが、このような場合は、たとえ煩わしくとも正式の国名で翻訳したほうがよいと思う。
 いま、そのやり方で書き直してみるならば、

《仮訳》
 中華人民共和国国際放送局は12日、中華人民共和国の漁業巡視船が11日未明に尖閣諸島の魚釣島(中華人民共和国の呼び方=釣魚島)付近を巡航中に日本の巡視船から何度も干渉を受け、中華人民共和国の漁業巡視船が「ここは中華人民共和国の管轄海域だ、中華人民共和国の言語で話せ」と日本側に伝えたと報じた。
 

となるはずである。
 このように訳してみれば、中華人民共和国の主張が根拠を持たないことがたちまち明らかになるだろう。なぜなら中華人民共和国の歴史はせいぜい半世紀程度でしかなく、その間、尖閣諸島が中華人民共和国の管轄区域だったことはない。国際的にもそのようなことが認められた事実はないからである。
 
 もちろん中華民国の台湾が、中華人民共和国の領土だった事実もない。

○支那学という学問
 かつて日本の人たちは「支那大陸」とか、「支那人」とかいう言い方をしていた。ところが、戦後、「支那」という言葉には差別意識が伴っているから好ましくない、という理由で、「中国」と改めることになった。べつに国会でそう決議したわけではなく、文部省の役人や、ジャーナリストや、知識人たちが「支那人」に気を遣って、「中国人」とか、「中国大陸」と呼び習わすことにしたのである。
 しかし「支那」という言葉はけっして差別語ではなかった。戦前の帝国大学には「支那学」という学問があり、支那大陸における王朝の興亡の歴史や、各王朝が残した文物や、文献の研究に従事してきた。大きく言えばそれは、欧米圏で発達してきた支那学(Sinology/Chine Studies)と、日本の儒者たちが中世以来、訓詁注釈の作業を通して積み重ねてきた知見との統合を目指す学問だったと言えるだろう。その意味で、「支那」はSinology のSino-、またはChina StudiesのChinaと同じ語源を持ち、国際性が高く、当然のことながら「支那」は敬意を込めた言葉だった。ところが、戦後、「支那」という言葉を廃したため、世界的に高い評価を得てきた支那学の成果までが顧みられること少なくなってしまったのである。
 

○迷惑な「版図」観念
 ところが、戦後、「支那大陸」における王朝の興亡を記述した「支那史」は、なし崩し的に、「中国大陸」における「中国史」に変えられてしまった。
 他方、日本の政府は、昭和24年10月、毛沢東を指導者とする共産党が中華人民共和国の建国を宣言したが、しかし直ちにそれを承認したわけではなく、「中共」と呼び習わしてきた。だが、昭和47年9月、日本政府は中華人民共和国を承認して、国交を結ぶことに踏切、それと裏腹の選択として蒋介石を指導者とする中華民国との国交を断ったわけだが、この頃から「中共」が消えて、「中国」が一般化したわけである。
 その結果、私たちの間に奇妙な錯覚が生まれてきた。
 それは、中華人民共和国の「中国」が、「中国大陸」における歴史の主体、あるいは歴史の継承者であるかのように思いこむ傾向が生まれてきたことである。
 いや、ひょっとしたら中華人民共和国の「中国人」も同じ錯覚に囚われているのかもしれない。支那大陸に出現し、そして消えていった各時代の王朝の間には権力の継承関係があったわけでなく、むしろ前王朝との継承関係を否定する形で出現する。この否定的な関係を「革命」と呼んできたわけだが、マスメディアが伝えるニュースによれば、最近の中華人民共和国の「中国人」はまるで中華人民共和国が歴代の王朝の版図を継承しているみたいな発言をしている。おまけに、その「版図」の観念たるや、歴代の王朝のどれか一つと朝貢関係にあった国は、全て「中国固有の領土」に入れてしまいかねない。そういう、まことに身勝手な、そして相手国にとってはまことに迷惑な「版図」観念なのである。

○狙いは沖縄?
 もっとも、中華人民共和国の「中国人」の、この「版図」観念に基づく主張は、単なる錯覚というより、むしろ相手の錯覚につけこむ、計算づくの主張と見るべきかもしれない。
 今年の7月9日、Record China が配信した、インターネットの記事によれば、中国共産党機関誌・人民日報系の国際情報紙、「環球時報」に、「
日本が釣魚島(日本名・尖閣諸島)問題で中国と争っても、全く勝ち目はない」とする論評記事が掲載されたという。以下は「環球時報」の記事である。
《引用》
 
日本の野田佳彦首相は7日、個人が所有する釣魚島(尖閣諸島)を国有化する方針を明らかにした。これにより、両国の争いが激化するのは必至である。単なる選挙対策とみる向きもあるが、中国人にとってはどんな理由であろうと関係ない。日本が中国の我慢の限界を刺戟してくるならば、それに真っ向から立ち向かうだけである。

 いずれにしろ、日本が釣魚島問題で中国と争っても、全く勝ち目はない。中国には十分な資源と手段があるばかりか、日本と徹底して戦おうという官民の意志もしっかりしている。是非とも互いに報復しあおうではないか。中国は釣魚島が西太平洋の「少々危険な」摩擦ポイントになっても少しも怖くない。

  日本政府の理不尽な挑発に対し、中国は積極的に以下の4点を成し遂げるべきである。
1、 釣魚島周辺における中国の存在感を高める。巡航などの主権行為を日本側より多く実施する
2、 日本側が一歩進めたら、中国側は一歩半でも二歩でも多く進める。日本側に挑発行為がどれほど深刻な結果を引き起こすのかを思い知らせる
3、 両岸四地(中国本土、台湾、香港、マカオ)による「保釣」(尖閣諸島を守る)活動を強化させる。台湾当局はあまり熱心ではないが、民意が率先して馬英九政府に呼び掛けていくべきだ
4、 釣魚島危機は中日の経済協力に悪影響を及ぼすことになる。だが、我々はあえて傍観しよう。そうすれば、日本側も政策の過ちに自ずと気付くに違いない。

 中日関係は重要だが、何をされてもじっと黙って耐えるほど重要ではない。日本とやり合う必要があると判断すれば、中国人は必ずやる。中国の主権と団結を守る方が、中日関係を波風立てないようにすることよりももっと重要だからだ。
 
それに、沖縄はどうしても日本領である必要があるのだろうか? 長い目で見れば、沖縄自身が「日本離れ」を起こしても全く不思議ではない。中国もこの問題を真剣に検討してみよう。もちろん、中国もできればもめ事は起きてほしくない。だが、どんなに友好を願っても日本の態度があれでは仕方がない。中国は実力で日本に目を覚まさせるしかないのである。

 日本がどんなに激しく反発しても恐れるな。ギャーギャー言わせておけばよい。何度かやり合ううちに、日本人も深く反省して、分をわきまえるようになるだろう。(翻訳・編輯/NN)
 
 

 これは論評記事というより、「中国人」の間に日本への敵愾心をあおり立てようとする、悪質なアジテーションと言うべきだが、なるほど、過日、魚釣島に上陸した香港や台湾の「活動家」はこんな煽りを受けて、自分の行動を正当化していたわけだ。そういう事情がよく分かる「論評記事」だが、この記事の書き手は、はしなくも後ろから2段目の段落で、その本心を露呈してしまった。狙いは沖縄なのである。
 米軍基地の問題で、沖縄の人たちの間に日本政府への不信感が広がっている。これを好機として、日本から離反する機運をあおり立てようということなのだろう。もう既に、そのための運動家や資金が流れ込んでいるかもしれない。

○「中国人」は存在しない
 今さら言うまでもないことだろうが、念のために確認しておくならば、夏、殷、周、秦、前漢、後漢……元、明、清と辿ることができる、支那大陸の歴代王朝は、「中国人」が作ったものではない。巷間、しばしば「中国三千年の歴史」などという言い方が行われており、多くの人がついうっかりと、「中国人」という民族(または人種)が王朝興亡の主役だったように錯覚しているらしい。だが、そもそも「中国人」などという民族(または人種)は存在しなかった。岩波書店の『広辞苑』や、諸橋轍次の『大漢和辞典』にも「中国人」は登録されていない。「中国人」という概念と、その概念に対応する人間集団(民族、人種、国民)は、学問的に認知されていないのである。

○日本は支那歴代王朝の版図外
 もう一つ確認しておくならば、ある時代、ある地域に出現した権力の版図が、そのまま次の時代、その地域に出現した権力の版図として受け継がれるとはかぎらない。むしろ版図辞退も崩壊し、新たに版図の再編成が行われるのが通例だろう。
 もしある時代、ある地域に出現した権力の版図が次の権力の版図として認められるならば、現代のギリシャはアレクサンダー大王の時代の版図を受け継ぐことができるはずであり、現代のイタリアはシーザーの時代のローマ帝国の版図を受け継いでいるはずであり、現在のモンゴルはチンギス・汗とその息子たちが支配した広大な版図を領有していなければならないし、現代のフランスはナポレオンの時代の版図を領有することが可能だ、ということになりかねない。
 しかし、もしそんなことになれば、現在アジアからヨーロッパにかけて存在する国家の大半は、以上の版図のなかに吸収され、消滅してしまうことになる。
 
 支那大陸に、17世紀から20世紀まで存在した清王朝は、満州人の女真族が建てた王朝であるが、その版図は、こと支那大陸の版図に関するかぎり、あのチンギス・汗の子孫が建てた元王朝よりも広かったらしい。最近の中華人民共和国政府の言動を見ると、その清王朝をはじめとして、支那大陸に出現した王朝の版図をすべて自分の領土だ、と言い出しかねない有様だが、国際的にそのようなことが認められるはずがない。しかも、仮にその主張が通ったとしても、日本のそれを及ぼすことはできないだろう。支那大陸に出現した歴代王朝の版図が日本に及んだことはなかったからである。
 この点では尖閣諸島も変わらない。
 
 
 
 

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