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判決とテロル(13)

太田三夫弁護士の尋問テクニック

○法廷という言説空間
 裁判における法廷という場は、私たちの会話場面の中でも、きわめて明確な言説規則によってコントロールされている、その意味では特殊な言説空間と言えるだろう。
 法廷では原告と被告が、「自分のこれこれの主張は、しかじかの証拠と論理に基づいている」という形で、法的な正当性を争うわけで、その主張にかかわらない発言は不要なもの、不適切なものとして、法的な判断から除外されてしまうからである。だが、それだけではない。裁判官には、判決を下すに必要かつ十分な材料が出揃うまで、原告と被告の双方が充分に意を尽くした主張ができるよう、主張の機会を公平、平等に与える責任がある。裁判官はこの責任を果たすために、原告、被告の発言をコントロールする権限を与えられているからである。

○被害者の再被害者化の問題
 その意味で、法廷における言説規則は、原告、被告の発言を公平、平等に保証するための規則と言えるのであるが、しかしそれだけで果たして法廷における原告または被告の人権を守ることができるだろうか。
 ジョン・M・コンレイとウィリアム・M・オバーの共著『公正な言葉を――法・言語・権力―』(John M. Conley and William M. O’Barr,“Just Words ―Law, Language and Power―”Chicago. 1998)の第2版(2005)によると、アメリカでこの問題は、被害者(victim)
の再被害者化(revictimization)という形で提起されてきたらしい。
 例えば性的な暴行を受けたと訴えた女性が、訴えられた男の弁護士の反対尋問(cross-examination)によって、暴行場面を言葉やジェスチャーで再現させられたりする。アメリカでは陪審員制度を採っており、その公判は公開されているわけで、被害を訴えた女性はもう一度、この人たちの前で、屈辱の場面を再演させられる。言わば人々の好奇心に晒されてしまうわけである。これを被害者の再被害者化と呼ぶわけだが、これは法廷で行われる人権侵害と言えるだろう。
 アメリカの幾つかの州は、このことを防ぐために、性的暴行を訴えた裁判の公開には一定の制限を設けていると言う。だが、たとえ傍聴制限をしたとしても、陪審員はその証言を聞いているわけで、実際のところ、再被害者化というべき事態はなかなか改善されない。なぜだろうか。

○具体例
 その一つの、そして根本的な原因は、弁護士が質問をする権利を持ち、証人(訴えた原告女性)は答える義務を負っているという、この発話の権力関係にあるのではないか。これはコンレイとオバーの仮説であるが、二人はこの仮説を立証するために綿密な論証をしていた。
 彼らが取り上げた例から、その一つを紹介しよう。

 ただしその例を理解してもらうためには、一つ予備知識が必要であり、それは“party”と“partying”の違いが、ここでは問題になっていることである。
 “partying”は、“party”という名詞に‘―ing’をつけて、動名詞化した俗語(あるいは隠語)であって、日本の若者が名詞に「る」をつけて動詞を作る遊びになぞらえることができるだろう。ただ、困ったことに、この言葉は『現代アメリカ俗語辞典』(三省堂、昭和44年)や『アメリカ俗語辞典』(研究社、昭和50年)に出て来ない。“A Dictionary of American Idioms”(Barron’s Educational Series, 1995)にも出てこない。やむを得ず、ここでは「パーティ」「パーティング」の形で引用する。読み終われば、「パーテイング」の意味もおおよそ見当がつくだろう。
《引用》
被告側弁護士:パーテイングってどんな意味なんですか。あなたはどんな。19歳。あなたはその時19歳でしたね。
原告:はい
弁護士:若い人たちの間ではどんな意味なんですか。あなたくらいの年ごろの人たち。ブライアンの年ごろの人たちは、パーティングという言葉で。
(ブライアンは多分性的暴力を加えたと訴えられた被告。引用者註)
原告:ある人たちは、何人かの友だちと一緒に出かけて、ちょっと飲むっていう意味に使っています。ある人たちは吸うとか、また、ある人たちはピルを飲むとか。
弁護士:パーティング。
原告:麻薬
(やく)(聞き取りにくい声で)
弁護士:あなたの年ごろの若い人たちの間では、パーティングはパーティへ行く意味ではない。そうじゃないんですか。
原告:その通りです。
弁護士:それは多くの人たちにとって性行為を意味している。そうですね。
(ここで、原告側の弁護士が「異議あり」と申し出たが、それは判事によって却下された)
弁護士:あなたの年ごろの多くの人たちにとってそれは性行為を意味している。そうではありませんか。
原告:ある人たちにとっては、はい、私そう思います。
弁護士:少なくともそれは麻薬類を用いることを意味している。
原告:はい
弁護士:それで、いつ彼らは言い出した、誰があなたにパーティングへ行こうと言い出したんですか。
原告:私、誰がその話を持ち出したのか知りません。〔彼らが言いました〕
弁護士:〔それで、行った〕
原告:――言いました。ええと、パーティがやれるアパートを持っている友だちがいるからって。
弁護士:それで、パーティングという言葉、さあパーティへ行こうとか、そんな意味のこと
。(聞き取りにくい言葉で)パーティングに行くわけじゃないと。
原告:ええ。
弁護士:間違いないですか。
原告:ええ。 (亀井試訳。〔 〕は、原告と弁護士の発言が重なっていたことを示す記号)

 こうしてみると、「パーティング」は若者たちが集まってマリファナを吸ったり、ピル(覚醒剤)を飲んだりするパーティを意味することが分かるが、この弁護士の狙いはそういう意味を明らかにすることだったわけではない。そうではなくて、原告の若い娘が「パーティング」の実態を良く知っており、友だちに誘われればそういうパーティに出かけていく娘である事実を引き出して、陪審員に、原告がふしだらな娘(loose woman)という印象を与えることにあった。その点で、この被告代理人弁護士はかなりうまくやったと言えるだろう。なぜなら、この弁護士は巧みな質問によって、原告が質問された以上のことまでしゃべってしまうように仕向けていたからである。

○二つの質問の仕方
 コンレイとオバーによれば、法廷における質問の仕方は大きく“WH question”と“tag question”とに分けることができる。
 WHクェッションとは、「なぜ(why)」、「どこで(where)」、「いつ(when)」、「どちら(which)」、「だれ(who)」、「なに(what)」、そして「どんなふうに(how)」などを問うことであるが、他方、タグ・クェッションは、‘You drove the car into the parking lot, didn’t you ?’というように、弁護士の側があることを述べた上で、「そうでしたね」「間違いありませんね」「その通りでしたね」など、付加疑問文の形式で質問をすることを指す。
 
 先の例で言えば、弁護士は「パーテイングってどんな意味なんですか。あなたはどんな。19歳。あなたはその時19歳でしたね」、「若い人たちの間ではどんな意味なんですか」と、WHクェッションを発して、ある意味では原告がしゃべらなくてもいいことまで上手に引き出し、その上で、「あなたの年ごろの若い人たちの間では、パーティングはパーティへ行く意味ではない。そうじゃないんですか」、「あなたの年ごろの多くの人たちにとってそれは性行為を意味している。そうではありませんか」と、タグ・クェッションで畳みかけて行く。
 このタグ・クェッションは、相手(原告)に“yes/no answer(「はい」か「いいえ」の答え)”を求める質問形式であり、その意味で相手の答えをより強くコントロールできる。先の弁護士はこのやり方で、原告から自分たち(被告と弁護士自身)に有利な答えを引き出してきたわけである。

○タグ・クェッションの効用
 法廷以外の、私たちの日常生活で、こんなタグ・クェッションを無闇やたらに発する人間は、そう沢山はいない。私の知る限り、田原総一郎というジャーナリストがテレビの討論会などでよくこのテを使い、相手がほんの少しでも返事に詰まっていると、更に追い打ちをかけるようにタグ・クェッションを発する。ちょっと見には、頭が切れる、舌鋒鋭いジャーナリストの印象を与えるようだが、実はタグ・クェッションという質問形式がそういう印象を生んでいるにすぎない。
 ジャーナリストとしての彼の頭のよさは、むしろ彼自身がタグ・クェッションの押しつけがましさ、つまり相手の不快感を誘いやすい質問であることを十分に承知しながら、「私は頭が悪いもんですから、ここは一つ、私のような人間にも分かりやすいように、まずイエスかノーで答えて下さい」などと自己卑下の言葉を織り交ぜて、タグ・クェッションの傲慢さを緩和する。そういう話術を心得ているからだろう。
 おまけに、彼に問い詰められている相手が、普段はけっこうコワモテのする政治家だったりして、そこが彼のウケる秘密なのである。

 私の見るところ、世間には、弁護士も頭が切れると思っている人が多い。私もそう思っている人間の一人で、私の知った弁護士は誰も芸が細かく、抜け目はなく、到底私などの歯が立つ相手ではない。ただ、こと法廷における弁護士に関して言えば、弁護士にはタグ・クェッションの手法が許され、それによって相手にイエスかノーの二者択一形式の答えを強いて、相手の矛盾をつつき出す。頭が切れる印象の秘密はそこにあるのだろう。
 
 それともう一つ、弁護士はしばしば、被尋問者の証言を途中で遮り、強引に自分の質問のほうへ引き戻すことをやる。これも日常の会話では、他者の発言に対する強引な介入と、権力主義的な会話の支配として忌避されるところであるが、法廷では大目に見られることが多い。これも弁護士がコワモテする理由であろう。

 コンレイとオバーによれば、一応のタテマエとして、被尋問者(先の例では原告)にも「それは適切な質問とは思えません」とか、「あなたは私の口からそういうことを言わせようとしていますね」とか、「あなたの質問の意味が分かりません」とかと、反問をする権利が与えられている。しかし大抵の場合、その反問は、弁護士によって「それは答えになっていません」と一蹴されてしまい、また、判事は弁護士のそういう態度を黙認している。そういう意味でも、弁護士と被尋問者とは発言に関して公平、平等の関係にあるわけではなく、弁護士のほうが圧倒的に優位だという、不均衡な力関係が生まれたわけである。
 
○太田三夫弁護士のタグ・クェッションの一例
 さて、それでは、わが太田三夫弁護士の場合はどうであっただろうか。平成20年10月31日の法廷において、このような場面があった。
《引用》

太田三夫弁護士:あなた、平成18年の4月以降、どこで仕事をされてましたか、場所。
原告・亀井志乃:場所ですか、事務室又は閲覧室又は収蔵庫です。
太田三夫弁護士:先ほど乙5号証で示しました席で仕事をしていることはありましたか。
原告・亀井志乃:はい、ありました。
太田三夫弁護士:割合的には、先ほど言った3つの場所のどの部分が一番多かったんですか。
原告・亀井志乃:閲覧室です。
太田三夫弁護士:大体どれくらいの割合ですか。
原告・亀井志乃:そうですね。週に…3日くらいは下りてましたので、でも、それと…。
太田三夫弁護士:いや、いいですよ。週に3日くらいは閲覧室にいた。
原告・亀井志乃:はい。
太田三夫弁護士:あなた、週に何回出るんですか。
原告・亀井志乃:4日間ですね。
太田三夫弁護士:4日間のうち3日間は閲覧室にいたということですね。
原告・亀井志乃:はい
(原告調書23p)

 このブログの前回や前々回を読んで下さった人にとっては、この時の太田三夫弁護士が何を狙っていたか、直ちに分かっただろう。
 平原一良副館長がその「陳述書」(日付は2008年4月8日)の中で、
夏が近づくころ(6月1日に私は、学芸副館長から副館長・専務理事へと発令されました)から、どうも学芸スタッフの間に当初とは異なる空気が流れていることに、私も気づきはじめました(中略)そのうち、亀井氏は、寺嶋氏が席に居るときには、事務室に極力とどまらずに席を空けていることがたびたびであることに気づきました(4p)と書き、寺嶋弘道被告もその「陳述書」(日付は2008年4月8日)の中で、前年度までの仕事が主に別室で進められていたという習慣もあってのことか、原告は18年4月以降も事務室内の学芸班の自席で執務することが少なく、そのため職員との会話の機会もまばらであったという日常でしたが、やがて同年の夏頃には原告の自席不在の執務態度を非難する声が聞こえ始めました(6p)と書いた。
 要するに二人が口裏を合わせて、亀井志乃の業務態度に問題があったという嘘を吐いたわけだが、そもそも亀井志乃が学芸班の自分の席で落ち着いて仕事をすることができないように仕向けたのは、平原学芸副館長(当時)と寺嶋学芸主幹だったじゃないか。亀井志乃にそう反論(5月14日の「準備書面(Ⅱ)―3」及び「準備書面(Ⅱ)―2」)されて、二人は再反論できなかった。つまり、二人とも嘘を認めざるをえなかった。
被告は、原告提出にかかる平成20年5月14日付準備書面(Ⅱ)-1.2.3に対しては、本件訴訟における争点との関係を考え、反論の準備書面を提出する予定はありません。(平成20年7月4日付「事務連絡書」)と。
 だが太田三夫弁護士としては、このまま引き下がることはできないと考えたのであろう。

 そこで、先のような尋問を行い、亀井志乃の「そうですね。週に…3日くらいは下りてましたので、でも、それと…。」という発言を強引に遮って、いや、いいですよ。週に3日くらいは閲覧室にいた。」というふうに話を持っていった。太田弁護士としては、〈亀井志乃は週に4日の勤務のうち、3日は閲覧室にいた。平原副館長と寺嶋弘道被告の「陳述書」における証言は正しかったのだ〉という印象を与えたかったのであろう。
 しかし亀井志乃が平原副館長や寺嶋被告に対する反論と共に提出した「ローテーション表」によれば、亀井志乃は週に3日、朝から晩まで閲覧室に詰めていたわけではない。ただ、学芸班の自分の席で新着雑誌や図書などの登録作業を行い、ちょっと席を外して、閲覧室なり収蔵庫なりに届ける場合もある。亀井志乃はそういう事情を、
そうですね。週に…3日くらいは下りてましたので、でも、それと…。」と説明しようとしたわけだが、太田三夫弁護士にははなはだ都合が悪い。そこで弁護士の権力を行使して、亀井志乃の発言を遮り、4日間のうち3日間は閲覧室にいたということですね。」とタグ・クェッションの形で、自分の結論を押しつけた。
 
○亀井志乃の反論
 太田弁護士としては「してやったり」というところかもしれないが、しかし気の毒なことに、亀井志乃の「最終準備書面」(平成20年12月12日)で、次のように反論されて、かつ寺嶋弘道被告の偽証まで指摘されてしまった。
《引用》

① 原告が閲覧室勤務につくようになったのは、平成18年4月14日、被告と平原学芸副館長から、O司書とA学芸員が担当の「新刊図書の収集・整理・保管」の業務を手伝ってほしいと依頼されたからです。この事により、原告は、この年度当初の予定になかった、新刊図書の収集・整理・保管というO司書とA学芸員の毎日のルーティンワークの一部を肩代わりすることになりました(具体的には寄贈雑誌のデータベース登録作業)。また、こうした変更の絡みで、原告は結果的に、閲覧室における来客対応を阿部学芸員・岡本司書との3交代で手伝うこととなりました(「準備書面(Ⅱ)―2」5~6p、および甲3号証・甲60号証・甲62号証参照)。原告が、前年度までに比して閲覧室に下りて仕事をすることが多くなったのは、偏(ひとえ)に、この時の被告と平原学芸副館長から依頼が原因です。
(中略)

③なお、〈閲覧室〉に関して言えば、原告が閲覧室に下りるのは、カウンターでの来客対応のためばかりではありません。①で触れましたように、原告の業務の一つに〈寄贈雑誌のデータベース登録作業〉がありますが、継続的に館に届いている雑誌については、パソコンのデータベースだけではなく、閲覧室にあるカードボックスのカードにも、その受入状況を記入しなければなりませんでした。バックナンバーが何巻まで届いているか記し、利用客の検索ニーズに応えるためです(なお、当時、利用客用の検索パソコンはありませんでした。多分、現在でもないと思われます)。その記入のために、原告は、ほぼ毎勤務日、閲覧室に下りざるを得ませんでした。ただし、カード記入だけの場合には、時間は数十分程度でした。そういう事情があったので、被告代理人からの尋問の際、原告は「週に…3日くらいは下りてましたので、でも、それと…」と説明を続けようとしたのです。しかしこの時も、被告代理人は原告の発言を遮って、理由も聞かず、強引に話を〈下りた日数〉だけに限定してしまいました。
④ 事実関係を整理して見ますと、被告や平原副館長の虚言の出発点は、平成18年4月14日の話し合いにあったことが分かります。その話し合いに関して、被告は、田口裁判長の
「亀井さんの了解を得た上で(「平成18年度 学芸業務の事務分掌」乙6号証が)決められたということになるわけですか」という質問に対して、次のように答えました。はい。ですので、寺嶋が、私が作りました原案を修正したことの1つが、図書の、雑誌の整理をどうするかという項目でしたので、それを副館長同席の上で亀井さんに確認したことの1つだと思います」被告調書21p)
 しかし、これは被告の偽証です。原告は平成18年4月14日に、
私(被告)が作った原案」なるものを見せられたことはありません。図書の、雑誌の整理をどうするかという項目」を確認したこともありません。実際は①で書いたとおりでした(75~76p。太字は原文のママ)

○太田三夫弁護士の尋問テクニック
 コンレイとオバーによれば、アメリカの大学の弁護士養成コースなどでは、タグ・クェッションや遮り(interruption)の技術を教えるらしい。WHクェッションの場合は、被尋問者が不用意にしゃべる言葉から、被尋問者の矛盾点や弱点を引き出すには便利だが、話が散漫になってしまう恐れがある。それに対して、タグ・クェッションは弁護士が被尋問者の発言を制約しコントロールでき、しかもタイミング良く話を遮って、自分が狙っている言葉を被尋問者に言わせることができるからである。
 日本でもそういう教育をしているのだろう。その点から見れば、太田三夫弁護士は優等生的な勉強家だったらしいことが分かる。

 もう一つ例を挙げてみよう。
 なお、亀井志乃はコンレイとオバーを読んでいたわけではない。が、基本的な方針として、「とにかく質問されたこと以上のことは言わない。また、正確に答える自信がない時には、のちほど書面でお答えいたしますと言い、決して曖昧なまま答えたりはしない。これが鉄則だという、一般向けの裁判の参考書の忠告に従うことにした」。この言葉を念頭に置いて読んでもらうと、以下の問答の面白さがもっと分かるだろう。
《引用》

太田三夫弁護士:先ほどの乙第2号証を示します。その一番下をちょっと黙読して下さい。ここには「財団事務局組織等規程の業務課、学芸班に属する司書、研究員の上司は、規程の定めにかかわらず学芸主幹とする。」と書いてありますね。
原告・亀井志乃:はい。
太田三夫弁護士:ここにいう研究員というのはだれですか。端的に言ってください。
原告・亀井志乃:この「*」印の意味がはっきりしないので、判然とは申せません。
太田三夫弁護士:研究員というのは、財団では何人いたんですか。
原告・亀井志乃:研究員というふうに職名が付いているのは、私1人です。
太田三夫弁護士:学芸主幹というのは、だれのことを言いますか。
原告・亀井志乃:…学芸主幹というのは、道の役職の学芸主幹として、寺嶋主幹だと聞いております。
太田三夫弁護士:再度乙第5号証を示します。この席順といいましょうか、座る場所、あなたは、なぜ寺嶋さんと一緒のエリアにいるんですか。
原告・亀井志乃:これは、単にそのようにまとめられていたと、前年度からの流れで、そのようにまとめられていたという状況でございました。
太田三夫弁護士:あなたは、平成18年4月以降のあなたのお仕事というのは、どのように理解されておりましたか。
原告・亀井志乃:財団法人北海道文学館の嘱託です。そして研究員です。
太田三夫弁護士:ですから、その仕事の中身としては、どのように理解されていたんですか。
原告・亀井志乃:仕事の中身は、当初申しましたように、その財団法人の中の職務としての文学資料の調査と整理、研究で、ほぼ、端的に言うとすれば、それに尽きると思います。
太田三夫弁護士:あなたは嘱託職員というお言葉を使われてますけれども、財団法人の従業員ではないんですか。
原告・亀井志乃:嘱託職員は、ある組織から依頼を受けて仕事をするという人間ですので、私はそのように理解しておりました。
太田三夫弁護士:ですから、従業員なんですか、従業員ではないんですか。
原告・亀井志乃:仕事を請け負っているという意味での従業員だと思っております。
太田三夫弁護士:あなたが主担当の業務として、「二組のデュオ展」というのがありましたね。
原告・亀井志乃:はい。
太田三夫弁護士:これは、あなたが主担当でしたね。
原告・亀井志乃:はい。
太田三夫弁護士:このあなたが主担当の業務について、何か、予算が必要だ、あるいは、だれか上司の判断を仰がなければならないと、こういうときに、だれにあなたは相談することになるんですか。
原告・亀井志乃:……予算というのは…。
太田三夫弁護士:結論だけ言ってください。だれに相談することになるんですか。
原告・亀井志乃:そのような形ではお答えできないんですけれども。
太田三夫弁護士:じゃ、あなたが主担当の業務については、あなたがすべて何でも勝手に決められるんですか。
原告・亀井志乃:……お答えしなければならないでしょうか。勝手という言葉が入りましたけれども
田口紀子裁判長:意味が分からなければ、分からないで結構です。で、今言われているのは、勝手に決めるという言い方されたんですけれども、どなたかに許可を取ったりとか、どなたかに相談されたりとかして決めることになるんですか。
原告・亀井志乃:ええ、基本的に言えば、予算のことについては、前年度に枠が決まっておりますので、その枠をはみ出るということでない限りは、基本的にはだれにも相談はしません。ほかの人も、だれもそういう場合は相談はしません。で、何か業務のことを遂行する上で、まあ、一応連絡は取っておかなければというふうになるとしたら、私の場合には、財団の、前年までで言えば平原副館長でした。
太田三夫弁護士:平成18年4月以降はだれなんですか。前年度までは平原さんとおっしゃるから、18年4月以降はだれなんですか。
原告・亀井志乃:私は業務課学芸班の人間でございます。
太田三夫弁護士だから、だれなの。端的に質問に答えて。
原告・亀井志乃:川崎課長です。
太田三夫弁護士:あなたが主担当の業務については、そうすると、仮にあなたが相談することがあるとすれば、川崎業務課長、この方以外にはないということですね。
原告・亀井志乃:そのようには申し上げておりませんが。
太田三夫弁護士じゃ、だれなの。それとも、あなたが一存でいろんなことは決められる、後は事後報告だけでいい、そういう発想ですか。
原告・亀井志乃:一存ではございません。ですから、火曜日の朝の打合せ会のときに職員全体に諮りました
(原告調書、20~23p。発話の太字は引用者)

 ここから、先ほど引用した、あなた、平成18年の4月以降、どこで仕事をされていましたか、場所。」という太田三夫弁護士の質問に移って行くわけだが、太田三夫弁護士が言わばマニュアル通りに頑張っていた様子がよく分かるだろう。

○太田三夫弁護士の失敗
 マニュアル通りによく頑張ったが、しかし気の毒ながら、成功したとは言いにくい。
 まず太田三夫弁護士は乙2号証の「財団法人北海道文学館事務局組織等規程の運用について」という文書における、
財団事務局組織等規程の業務課、学芸班に属する司書、研究員の上司は、規程の定めにかかわらず学芸主幹とする。」という文言を持ち出して、亀井志乃をひっかけようとしたわけだが、うまく行かなかった。
 なぜなら、既に亀井志乃は「準備書面(Ⅱ)―1」(平成20年5月14日)の中で、この文書には手続き上の問題があり、また、この文言の意味内容にも不明なところが多く、オーソライズされたものとは言えないことを証明しておいたからである。
 
 そこで太田三夫弁護士は「従業員」という大雑把な括りの中に、亀井志乃研究員も寺嶋弘道学芸主幹も繰り込み、二人は部下と上司の関係だったと見せかける策戦に出たのであろう。ところが、亀井志乃から、自分は財団の研究員だが、学芸主幹という役職名は道の職員しか持たないと、両者の区別を明確に指摘されてしまった。もし太田三夫弁護士がこれ以上深追いすれば、〈道の学芸主幹が財団の研究員の上司となるのは、公務員法に違反することになるのではないか〉という、亀井志乃の兼ねての主張と正面からぶつからざるを得ない。結局太田三夫弁護士は、
ですから、従業員なんですか、従業員ではないんですか。」と二者択一の返事を求め、亀井志乃の「仕事を請け負っているという意味での従業員だと思っております。」という、あまりにも正確明瞭な限定つきの返事を受けて、この件の追求を諦めるしかなかったのである。

○太田三夫弁護士の苛立ち
 この辺から太田三夫弁護士はだいぶイライラし始めたらしい。次に
「このあなたが主担当の業務について、何か、予算が必要だ、あるいは、だれか上司の判断を仰がなければならないという、こういうときに、だれにあなたは相談することになるんですか。」と質問をぶっつけたわけだが、これは自分の無知をさらけ出す結果にしかならないだろう。文学館の展示業務に関する予算は前年度末に決定されており、よほど特別な事情が発生しないかぎり、予算の執行はその展示業務の主担当と副担当の判断に任されているからである。このことは、亀井志乃が「準備書面(Ⅱ)―1」その他で詳しく説明しておいた。太田三夫弁護士はもちろん承知していたはずである。
 とするならば、太田三夫弁護士の
「何か、予算が必要だ、あるいは、だれか上司の判断を仰がなければならないという、こういうときに、」云々は、単なる仮定法にすぎない。なぜなら亀井志乃は、平成18年度に、自分が「何か、予算が必要だ」というような不始末をしでかした覚えはないからである。そこで「……予算というのは…。」と、改めて予算執行の実情を説明しようとしたところ、太田弁護士はその言葉を遮って、結論だけ言ってください。だれに相談することになるんですか。」と短兵急に返事を要求する。だが、亀井志乃には仮定の質問に答える義務はなく、その気持ちもなかった。そこで、そのような形ではお答えできないんですけれども。」と返事をし、するとは太田三夫弁護士「じゃ、あなたが主担当の業務については、あなたがすべて何でも勝手に決められるんですか。本来ならば伏せておくべき言葉を、苛立ちのあまりつい口走ってしまったのであろう。
 
○形勢逆転
 亀井志乃は後でこの場面を振り返り、「『仮定の質問にはお答え出来かねます』と突き放してしまったほうがよかったかな」と反省していた。
 たしかにこの前後から、太田弁護士は「さあ、ここが見せ場だぞ」と言わんばかりに、言葉づかいも態度もLになってきた。自分がこの会話を仕切っているのだという思い上がりなのだろう、横柄な態度で質問を続ける。おかげで亀井志乃は、一方的に押しまくられているような印象だった。
 だが、太田三夫弁護士が
「じゃ、あなたが主担当の業務については、あなたがすべて何でも勝手に決められるんですか。」と高飛車に決めつけ、亀井志乃が「……お答えしなければならないでしょうか。勝手という言葉が入りましたけれども。」と返事を保留して、一呼吸、間を取った。それを見て私は、太田弁護士の追求もそこまでだなと思った。
 
 太田弁護士としては、二者択一の質問で追い詰め、タグ・クェッションで決定的な返事を引きだそうとしたのだろう。もし亀井志乃が「はい」と答えれば、亀井志乃自身が「自分が主担当の業務については、すべて何でも勝手に決められる」と考えていたことを認めたことになる。もし「いいえ」と答えたとすれば、太田弁護士は更に、〈それならば、あなたは何かを決めるについて誰かに相談しなければならなかったはずだが、誰かに相談した事実があるのか〉と追求することができるわけである。
 ところが亀井志乃は
「勝手に」という言葉に仕掛けられたトラップに気がついて、返事を保留し、裁判長の介入を誘って、その間に自分の態勢を整えた。被尋問者が逆に質問することは、タテマエ上は認められているけれども、実際にそれが許されることは滅多にない。コンレイとオバーはそう言っていたが、亀井志乃は全くの素人だったおかげで、そんな暗黙の慣例などあっさりと踏み越えてしまったのである。

○突き放された太田三夫弁護士
 これ以後、太田三夫弁護士はいよいよ焦ったらしく、
平成18年4月以降はだれなんですか。前年度までは平原さんとおっしゃるから、18年4月以降はだれなんですかだから、だれなの。端的に質問に答えてじゃ、だれなの。それとも、あなたが一存でいろんなことは決められる、後は事後報告だけでいい、そういう発想ですかと、無礼なもの言いで、同じ質問を執拗に重ねて行く。喉から手が出るほど「それは寺嶋学芸主幹です」という返事が欲しかったのだろうが、むしろ彼自身のほうが、法廷における発言の不均衡な権力関係を利用して、強引に自分の求める返事を言わせようとする、そういう傲慢な自分の正体を表出してしまっていた。
 
 普通の日常会話で、対等な人格の相手に対して、もしこのような口の利き方したならば、相手から撲られるか、相手や周囲の人間の顰蹙を買うだけだろう。では、法廷という言説空間にかぎり、このような非常識が許されるのだろうか。そんなことはない。法廷においても市民のルールが守られなければならないはずだが、それにもかかわらず、太田三夫弁護士のような権力主義が大手を振ってまかり通っている。そんなことを許してきたのは、司法・法律関係者の中に、裁判や法廷を特殊な言説空間に仕立てたがる、特権意識があるからにほかなるまい。
 太田三夫弁護士も大いにこの特権意識を享受しているふうであったが、その下心ある質問は、亀井志乃の
「私は業務課学芸班の人間でございます」という、きっぱりとした立場表明と、そのようには申し上げておりませんが一存ではございません。ですから、火曜日の朝の打合せ会のときに職員全体に諮りました」という切り口上の返事によって、なす術なく跳ね返されてしまった。

 亀井志乃が対応のコツを掴むにつれて、太田三夫弁護士がジタバタし始める。そこのところが何とも面白い。
呵々

 
 
 

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コメント

私も同じコンビに地獄におとされました一字一句同意権です自分の信念でこれからも書いてください
 
 感謝します

投稿: 志門 | 2009年9月 5日 (土) 19時50分

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