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判決とテロル(2)

田口紀子裁判長の虚構

○月にかぐや姫は住んでいたか
 田口紀子裁判長は「判決文」の中でおかしなことを言っていた。それも1つや2つでない。中には鳥肌が立つような箇所も見られるのだが、いきなりそれを紹介すると衝撃が強すぎるだろう。今回はそれを避け、私が言う「おかしな」の意味が伝わりやすく、衝撃の度合いも低い事例から入って行きたい。
 次はその分かりやすい1例である。田口紀子裁判長は、「イ 原告の主張する被告の各不法行為についての検討」という章の(ス)の項で、こんなことを言っていた。
《引用》
(ス)原告は、平成18年12月6日、被告が、文学館が行った高齢者雇用安定法が指示する「年齢制限を設けた理由の明示」に従わない違法な正職員採用の募集要項の決定に加わり、文学館の違法行為に加担した旨主張する。同募集要項の決裁欄に被告の押印も認められるものの、あくまでも、同募集の主体は文学館であり、被告が、原告が応募できないように、年齢制限を加えるように文学館に働きかけたといった事実は認められないから、この点に関する原告の主張は認められない(23p。下線は引用者)

 これが(ス)項の全文であるが、多分この箇所を読んだ人は、亀井志乃は次のように主張したのだと思うだろう。「被告の寺嶋弘道学芸主幹は文学館に対して、亀井志乃が応募できないように、正職員の募集要項に年齢制限を加えるよう働きかけた」と。なぜなら、田口紀子裁判長の判決文は、亀井志乃がそのように「主張」したことを前提として組み立てられており、〈しかし亀井志乃が「主張」するような事実はなく、だから亀井志乃の「主張」を認めることができない〉と、亀井志乃の「主張」を退ける。そういう構造になっているからである。
 だが、亀井志乃が一度もそのようなことを「主張」してはいない。つまり、この「主張」は田口紀子裁判長が虚構したものだったのである。

 たとえば亀井志乃が、月に生命体が存在した痕跡について論じたところ、田口紀子さんが出てきて、「いや、月にかぐや姫が存在した事実はありません。だから亀井さんの主張は認めることはできません」と断定したとしよう。大抵の人から見て、この田口紀子さんの断定は、「田口さん、それはおかしいですよ」ということになるだろう。
 田口紀子裁判長が言う亀井志乃の「主張」は、月のかぐや姫みたいなものだったのである。

 裁判官がその判決文の中で、原告が一度も主張したことがない事柄を虚構して、原告の主張を退ける理由に使う。日本の裁判ではそのようなことが許されるらしい。考えてみれば、これは恐ろしいことだ。

○亀井志乃が言う「生命体の痕跡」
 では、亀井志乃は、実際には、どのようなことを主張していたのであろうか。
 亀井志乃は平成20年3月5日付の「準備書面」で、次のように書いている。
《引用》
(13)平成18年12月6日(水曜日)
(a)被害の事実
 原告は12月2日(土曜日)、川崎業務課長から、12月6日(水曜日)に毛利正彦館長(当時)による職員面談があるからと、「自己申告書」という書類を渡され、必要事項を書いて、5日(火曜日)に提出した。
 そして12月6日午前11時30分頃、館長室に呼ばれ、毛利正彦館長(当時)から、平成19年度の雇用を更新しないという財団法人北海道文学館の方針を告げられた。
 財団は更に、原告の異議申し立てを無視して、12月12日、北海道立文学館公式ホームページ等において、正職員の学芸員と司書を採用する募集要項(「学芸員、司書の募集について」甲19号証)を公示した。募集要項には、「1971(昭和46)年4月1日以降に生れた者」という年令制限が設けてあり、その制限を越えた年令の原告は改めて応募する機会を与えられず、平成19年3月31日をもって職を失った。被告は原告に対して、「自分は財団の人事と関係ない」と言っていたが、「平成19年度 財団法人北海道文学館職員採用選考」に関する「決定書」(12月12日決定)では、被告は募集要項決定の合議に加わっていた(甲20号証)。
(b)違法性
イ、財団法人北海道文学館が行った正職員採用の募集要項は、高齢者雇用安定法が指示する「年齢制限を設けた理由の明示」に従わない、違法な募集要項だった。原告はこの違法な募集要項のため、財団と再雇用の契約を結ぶ機会も、この募集に応募する機会も失った。被告はこの違法な募集要項の決定に加わり、財団法人北海道文学館の違法行為に加担した。これは「地方公務員法」第29条に該当する違法行為である。
ロ、被告は北海道教育委員会が駐在道職員に指示した業務事項を逸脱して、財団法人北海道文学館の人事にかかわり、財団の違法な募集要項の決定に加わった。これは「地方公務員法」第38条に反する違法行為である
(28~29p。下線は引用者)

 先ほど引用した田口紀子裁判長の判決文は、この亀井志乃の主張に対して下されたものだった。だが、一読して分かるように、亀井志乃は「被告の寺嶋弘道学芸主幹は文学館に対して、亀井志乃が応募できないように、正職員の募集要項に年齢制限を加えるよう働きかけた」という意味のことは言っていない。亀井志乃はこの「準備書面」以外にも、幾つかの文書を裁判所に提出したが、その文書のどこにおいても、このような意味のことは一言も書いてはいないのである。

 亀井志乃の主張のポイントは下線を引いた箇所にある。彼女はその証拠として、財団法人北海道文学館が作成した、「平成19年度 財団法人北海道文学館職員採用選考について」という議題の「決定書」(甲20号証)を提出した。この「決定書」の「合議」欄に寺嶋弘道の印が押してある。つまり、公務員の寺嶋弘道学芸主幹が、財団法人の人事方針の決定に加わっていたのである。
 
 この指摘に対して、被告・寺嶋弘道は
「原告の任用や学芸員及び司書の採用に係る事項については、財団の進めていた事項であり、北海道教育委員会職員である被告の権限、責任の及ばざるところであり、財団の対応も含めて被告の責めに帰するとする原告の主張は失当である。」(平成20年4月9日付「準備書面(2)」10p)と反論してきた。
 被告の反論はこれだけであり、「北海道教育委員会職員である被告(寺嶋弘道)」が財団の「決定書」の「合議」欄に押印していた事実から逃げている。
 それに対して亀井志乃は次のように再反論した。
《引用》
 
被告はこの違法な募集要項を決定した「平成19年度財団法人北海道文学館職員採用選考」に関する「決定書」(12月12日決定。甲20号証)の「合議」の欄に押印している。これは北海道教育委員会の職員である被告が、民間の財団法人の人事に関する方針の決定に加わったことを意味し、公務員として違法な行為である。しかも財団法人の募集要項は違法なものであり、公務員である被告はコンプライアンスの観点からそれを阻止しなければならない立場にあった。それにもかかわらず、被告はそれを阻止せずに、違法行為に加担した。その意味で二重に違法行為を行ったことになる。かつ被告は、この募集要項が実施されるならば、原告が応募の機会を失うことを承知していたはずであるが、あえて公務員としての分限を越えて、原告を失職に追い詰める違法行為に加担した。
 これは前項で指摘した、財団の人権侵害行為との共犯関係に新たに加えられた、被告と財団との共犯的違法行為である
(5月14日付「準備書面(Ⅱ)-1」44p。下線は引用者)
 これはごく筋の通った再反論と言えるだろう。
 亀井志乃のこの反駁に対して、被告側は沈黙をしたままだった。

○田口紀子裁判長による「痕跡」の無視
 ところが、田口紀子裁判長は以上の経緯を無視し、あたかも亀井志乃が「被告の寺嶋弘道学芸主幹は文学館に対して、亀井志乃が応募できないように、正職員の募集要項に年齢制限を加えるよう働きかけた」と主張したかのように虚構し、それだけが争点であったかのごとく歪曲し、矮小化してしまったのである。
 
 ちなみに、平成18年12月6日は、亀井志乃の「準備書面」で分かるように、
亀井志乃が)館長室に呼ばれ、毛利正彦館長(当時)から、平成19年度の雇用を更新しないという財団法人北海道文学館の方針を告げられた」日であった。ところが、田口紀子裁判長は事態の経緯を単純化し原告は、平成18年12月6日、被告が、文学館が行った高齢者雇用安定法が指示する『年齢制限を設けた理由の明示』に従わない違法な正職員採用の募集要項の決定に加わり、文学館の違法行為に加担した旨主張する」と解釈している。だが、亀井志乃は「平成18年12月6日、被告(寺嶋弘道)が……募集要項の決定に加わり」(下線は引用者)とは言っていない。亀井志乃が証拠として提出した「決定書」(甲20号証)も、起案年月日/18・2・8、決定年月日/18・12・12となっている。これも田口紀子裁判長が亀井志乃の「準備書面」や甲20号証をきちんと読んでいなかった証拠であろう。

○裁判官の鉄則
 素人の私がこんなことを言うのは、「釈迦に説法」ということになりかねないのだが、日本における裁判のルールは、〈裁判官は、原告と被告の双方が主張する「事実」に関しては、双方が提出した証拠物を吟味し、吟味した結果に基づいて「事実」を明らかにして、その範囲内で法的な判断を下さなければならない〉ことになっている。別な言い方をすれば、〈判断の範囲は、原告と被告の双方、またはそのいずれかが主張したことと、そのために提出された証拠物に限られており、それを越えた「事実」や証拠物を持ち出して判決を下してはならない〉のである。
 
 そうであればこそ、裁判官は〈どれほど自明な事実と見えようとも、原告と被告の双方、またはそのいずれかが、審理(法廷における証言だけでなく、「準備書面」や「陳述書」を含む。以下同じ)の過程において、その事実を主張しないならば、それは裁判における「事実」としては存在しない〉という方針を堅持しなければならない。またそうであればこそ、〈裁判官は自分が見つけ出した事実や、法廷の外で見聞した事柄を、判決の材料に用いてはならない〉のである。

○田口紀子裁判長のルール違反
 そんなわけで、まず初めに田口紀子裁判長がしなければならないのは、財団法人北海道文学館の「決定書」(甲20号証)の「合議」欄に、「寺嶋」の印が押してあり、これをどのように解釈するか、ということであった。
 亀井志乃はこれを、「寺嶋弘道学芸主幹がこの募集要項の決定に加わった」事実の証拠と見た。亀井志乃が主張する「事実」はそれだけである。
 では、田口紀子裁判長は法廷における審理のどの時点で、「『被告の寺嶋弘道学芸主幹は文学館に対して、亀井志乃が応募できないように、正職員の募集要項に年齢制限を加えるよう働きかけた』と亀井志乃が主張した」という事実を知ったのであろうか。「決定書」の「合議」欄に「寺嶋」の印が押してあった「事実」に関する、被告側の主張は先ほど引用した如くであり、被告側もまた「被告の寺嶋弘道学芸主幹は文学館に対して、亀井志乃が応募できないように、正職員の募集要項に年齢制限を加えるよう働きかけた」という意味のことは言っていない。
 とするならば、田口紀子裁判長は
「被告が、原告が応募できないように、年齢制限を加えるように文学館に働きかけたといった事実」があったか否かについて、何らかの情報を、法廷における審理の外で得たことになるだろう。だが、もし仮に田口紀子裁判長が法廷における審理の外で、寺嶋弘道被告や太田三夫弁護士から「決定書」の会議内容を聞く機会があったとしても、それを判決の材料としてはならないはずである。
 その意味で、田口裁判長の
「被告が、原告が応募できないように、年齢制限を加えるように文学館に働きかけたといった事実は認められない」という断定は、「事実」の裏づけを欠いた、恣意的な判断でしかない。
 このような判断に基づいて、
この点に関する原告の主張は認められない。」と亀井志乃の主張を退ける。これは裁判のルールを踏みにじる、不当な判決と言うほかはないであろう。

○田口裁判長の手抜き
 次に田口紀子裁判長が行うべきは、
財団法人北海道文学館が行った正職員採用の募集要項は、高齢者雇用安定法が指示する『年齢制限を設けた理由の明示』に従わない、違法な募集要項だった。原告はこの違法な募集要項のため、財団と再雇用の契約を結ぶ機会も、この募集に応募する機会も失った。被告はこの違法な募集要項の決定に加わり、財団法人北海道文学館の違法行為に加担した。これは『地方公務員法』第29条に該当する違法行為である。」という亀井志乃の主張を検討し、裁判官としての法的な判断を明示することだった。

 財団法人北海道文学館が行った正職員採用の募集要項は、高齢者雇用安定法が指示する「年齢制限を設けた理由の明示」に従わない、違法な募集要項だった。この指摘に関しては、田口紀子裁判長も異存はないところであろう。
 その違法な募集要項を決定した「決定書」の「合議」欄に、北海道教育委員会職員の寺嶋弘道学芸主幹が押印しているのである。亀井志乃が、
財団法人の募集要項は違法なものであり、公務員である被告はコンプライアンスの観点からそれを阻止しなければならない立場にあった。」と指摘したように、これは財団のコンプライアンスだけでなく、寺嶋弘道の公務員としてのコンプライアンスが問われる、重要な過失であった。その点を踏まえて、亀井志乃は「地方公務員法」第29条に該当する違法行為と見なしたわけだが、念のために「地方公務員法」第29条(懲戒)を紹介すれば、それは次の如くである。
《引用》
 第29条 職員が次の各号の一に該当する場合においては、これに対し懲戒処分として戒告、減給、停職又は免職の処分をすることができる。
1.この法律若しくは第57条に規定する特例を定めた法律又はこれに基く条例、地方公共団体の規則若しくは地方公共団体の機関の定める規程に違反した場合
2.職務上の義務に違反し、又は職務を怠つた場合
3.全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合

(以下略)

 もし田口紀子裁判長が、裁判官としての責任において、寺嶋弘道被告の行動は、この第29条のいずれの項にも該当しないと判断し、それ故被告の行動に違法性はなかった、と亀井志乃の訴えを棄却したのであるならば、その判断理由を明記すべきであった。特にコンプライアンスの問題は、裁判官が見過ごしにしてはならない問題だったはずである。
 ところが田口紀子裁判長は、
あくまでも、同募集の主体は文学館であり、被告が、原告が応募できないように、年齢制限を加えるように文学館に働きかけたといった事実は認められないから、この点に関する原告の主張は認められない。」という虚構の理由を設けて、亀井志乃が指摘した事実とそれに関する「違法性」の判断を無視してしまった。
 これは判決文としての実質を欠き、原告の亀井志乃に対しては不誠実な対応と言うしかないが、田口紀子裁判長としては、裁判のルールを無視してでも、寺嶋弘道の行動が公務員としての違法であるか否かの法的判断を回避したかったのであろう。

○再び田口紀子裁判長による「痕跡」の無視
 亀井志乃が指摘する「地方公務員法」第38条(営利企業等の従事制限)の問題も同様であった。
《引用》

第38条 職員は、任命権者の許可を受けなければ、営利を目的とする私企業を営むことを目的とする会社その他の団体の役員その他人事委員会規則(人事委員会を置かない地方公共団体においては、地方公共団体の規則)で定める地位を兼ね、若しくは自ら営利を目的とする私企業を営み、又は報酬を得ていかなる事業若しくは事務にも従事してはならない。
2 人事委員会は、人事委員会規則により前項の場合における任命権者の許可の基準を定めることができる。

 寺嶋弘道学芸主幹が財団の人事方針の合議に加わったが、それはこの条文にも違反する行為でもあったはずだ。亀井志乃はそう考えたわけだが、もしその主張に疑問を抱く人がいるとすれば、それは、〈果たして財団法人北海道文学は「営利を目的とする団体」に該当すると言えるだろうか〉という疑問だろう。
 
 確かに平成17年度までは、財団法人北海道文学館は道の依託を受けて道立文学館の運営に当たる、非営利的な財団だった。
 しかし平成18年度から指定管理者制度が導入され、指定管理者に選ばれた財団は、1年に1億4千万円を超える税金を、経営資本として道から受け取っている、れっきとした営利団体なのである。道立文学館には、財団と連携協働するために道の公務員である寺嶋弘道学芸主幹とS社会教育主事と、A学芸員の3人が駐在しており、3人の給料は道から出ているが、館長や副館長、業務課の職員(業務課の学芸班の司書と研究員)の給料は、財団が道立文学館を経営して得た収益から支払われている。財団はそういう形で、道から独立した、民間の営利団体なのであり、それ故、その収益に対しては税金が課されているのである。
 
 そういう民間の営利団体たる財団の人事に、駐在の道職員がかかわることが許されるかどうか。寺嶋弘道学芸主幹は財団の人事の方針を決める「決定書」の「合議」欄に押印しているが、彼は「任命権者の許可を受けていた」か否か。田口紀子裁判長はそれらの点に関して法的な判断を示すべきだったが、それを避けてしまった。
 
 亀井志乃は「最終準備書面」においても、次のように問題を提起している。
《引用》
 
しかし、この逆のケースを考えてみたらどうでしょう。仮に、北海道教育委員会が、道立文学館に駐在させている学芸員の異動や、学芸員の新採用を構想した時、その起案書の合議欄に、民間の財団法人の神谷理事長なり毛利館長なりの押印を求めることがあり得るでしょうか。もちろん、こうした場合、この起案書の合議欄に神谷理事長なり毛利館長なりの押印がなければ、起案が決定されたことにはならず、その意味では北海道教育委員会の人事に民間の財団法人の理事長や館長がかかわることになるわけです。北海道教育委員会が、そのような違法な手続きを取るとは考えられません。
 
そのように考えれば分かるように、被告が財団の「平成19年度財団法人北海道文学館職員採用選考」に関する「決定書」の「合議」の欄に押印していたという事実は、北海道教育委員会の公務員である被告が民間の財団の人事に加わっていた事実の明白な証拠にほかなりません。もし、被告が本当に、財団の人事には加わっていなかったならば、被告は「決定書」の回覧に目を通すだけで済んだはずです
 被告は根拠なき〈上司〉意識、〈指揮監督(命令)の立場〉の自己主張によって、原告に対して人格権の侵害を繰り返しました。加えて被告は、上記のような法律違反を犯しています。以上のような意味で、被告の法律違反は全て確信犯的な行為であったと言えます
17p。太字は原文のママ。下線は引用者)
 
 だが、田口紀子裁判長はこの最終的な主張についても、何ら判断を示さず、黙殺してしまった。そうして「月にかぐや姫はいなかった」みたいな話を持ち出して、争点を誤魔化してしまう。これは原告を愚弄するものと言うしかないだろう。

 ○月にかぐや姫は住んでいた
 これは前回(「判決とテロル(1)」)に指摘したことだが、田口紀子裁判長は「財団法人北海道文学館事務局組織等規程の運用について」(乙2号証)という文書を根拠として、「寺嶋弘道学芸主幹は亀井志乃研究員の上司だった」と断定した。
 任命権者が異なり、給料の出所も異なる寺嶋弘道学芸主幹と亀井志乃研究員との間に、なぜ上司と部下の関係が成立し得るのか。亀井志乃は一貫してこの問題を取り上げてきたのだが、田口紀子裁判長はこの件については、今度は「月にかぐや姫は存在した」みたいな虚構を持ち出して、黒を白と言いくるめようとした。
原告が研究員として所属する文学館の業務課には、文学館の職員である課長、主査、主任、主事が配置され、業務課の中にさらに学芸班が設けられ、学芸班には、学芸員、研究員、司書が置かれるとともに、北海道教育委員会から派遣された学芸主幹(被告)、社会教育主事、学芸員の3名も配置された。」と(3p)。
 
 つまり、田口紀子裁判長によれば、〈財団の業務課の中に設けられた学芸班に、駐在道職員の寺嶋弘道学芸主幹とS社会教育主事とA学芸員が繰り込まれた〉となるわけだが、しかし「財団法人北海道文学館事務局組織等規程の運用について」の中には、上記のような田口紀子裁判長の組織理解を可能とする文言はなかった。もちろん平成18年度、道立文学館の中にそんな組織はなかった。にもかかわらず、田口紀子裁判長は、ここでは、「月にかぐや姫は存在した」みたいな虚構をでっち上げた。なぜそんな虚構をでっち上げたのか。

○田口紀子裁判長の上手な読み違い
 その問題も、今回の流れの中に置いてみるならば、更にその問題点やでっち上げの理由がよく見えてくるだろう。要するに、〈寺嶋弘道学芸主幹はこの「学芸班」の中で、次年度に定年退職となる女性のO司書を除けば、最年長であり、たとえ「任命権者の許可」がなくても、財団の「運用」として、亀井志乃の上司とすることができる〉ということにしたかったのである。
 それだけではない。「財団法人北海道文学館事務局組織等規程の運用について」が描いている「学芸班」は、田口紀子裁判長が描いてみせた「学芸班」組織とはまるで異なっていた。それは財団の業務課からは独立し、並立する組織として構想され、その中心メンバーは北海道教育委員会から派遣された学芸主幹(被告)、社会教育主事、学芸員の3名で構成する。そしてその中に、財団業務課学芸班の司書と研究員(財団の職員)を移す(配置する)ことにした。
 その際、この学芸班の最初に「学芸主幹」という職名を置き、学芸班全体の「上司」であるかのように見せかけたわけだが、それについて、亀井志乃が〈では、この学芸主幹の上司は誰なのか。組織上、一職員たる学芸主幹に上司が存在しないことはあり得ない〉(「準備書面(Ⅱ)-1」)という意味の疑問を呈したところ、寺嶋弘道被告も太田三夫弁護士も答えられなかった。もし答えるとすれば、学芸主幹(被告)が属する、北海道教育委員会の「文化・スポーツ課」の課長の名前を挙げるしかないわけだが、そうすると、財団職員の司書と研究員(亀井志乃)も「文化・スポーツ課」の課長の部下ということになってしまう。「財団法人北海道文学館事務局組織等規程の運用について」の描く組織図の学芸班はそういうジレンマを抱えており、寺嶋弘道学芸主幹も太田三夫弁護士も返答に窮して、亀井志乃の疑問を黙殺してきた。
 しかし、田口紀子裁判長が虚構した組織ならば、〈寺嶋学芸主幹の上司は川崎業務課長です〉と取り繕うことができる。さらにこの虚構の組織図の便利なところは、〈亀井志乃の組織上の上司は川崎業務課長だが、学芸の仕事に関する事実上の上司は寺嶋弘道学芸主幹だった〉と言い繕うことができることである。
 被告側にしてみれば、田口紀子裁判長が「財団法人北海道文学館事務局組織等規程の運用について」を読み違え、虚構の組織を作ってくれたおかげで大助かりというところだろう。
 
 その意味で田口紀子裁判長の「月にかぐや姫は存在した」みたいな作り話は、巧妙なトリックだったわけで、そうしてみると田口紀子裁判長は随分上手に読み違えをすることができる、知恵のまわる人なんだなぁ……。まさか誰かの入れ知恵ということはないだろう。

○再び田口紀子裁判長のルール違反
 だが、この「寺嶋弘道上司説」に関しては、田口紀子裁判長が責任をもって答えなければならない問題が、まだ残っている。
 それは、被告が一度も主張しなかったにもかかわらず、なぜ田口裁判長は「財団法人北海道文学館事務局組織等規程の運用について」を、
組織規程にかかわらず、学芸班に所属する司書、研究員の上司は、北海道教育委員会から派遣された学芸主幹とする旨を定めた」文書と受け取ったのか、という問題である。
  
 確かに被告は、「財団法人北海道文学館事務局組織等規程の運用について」というA4版1枚の文書と、「財団法人北海道文学館事務局組織等規程」というA4版2枚の文書を、「乙第2号証」として提出し、「証拠説明書(乙号証)」(平成20年4月15日)の「立証趣旨欄」に、「財団と被告ら駐在職員との組織体制について。被告が原告に対する上司であること。」と書いている。
 だが亀井志乃は、この文書の違法性を指摘する批判するに当たって、まず次のようにことわっておかなければならなかった。
《引用》
 
被告側は平成20年4月16日の法廷において「財団法人北海道文学館事務局組織等規程の運用について」(乙2号証)という文書を提出した。この文書と被告「準備書面(2)」との関係については何の説明もなかったが、「証拠説明書(乙号証)」の立証趣旨に「財団と被告ら駐在職員との組織体制について。被告が原告に対して上司であること。」と説明されており、それ故ここではとりあえずこの文書が、「事実上の上司」という被告の主張の根拠をなすべく提出されたものとして受け取っておく(5p。太字は引用者)
 
 亀井志乃がこのようにことわらざるを得なかったことから分かるように、被告は法廷における審理(「準備書面」や「陳述書」を含む)の中で、ただの一度も〈被告は原告の事実上の上司だったが、それを裏づける証拠物は「財団法人北海道文学館事務局組織等規程の運用について」だ〉という意味の主張をしたことはなかった。つまり、「被告は原告の事実上の上司だった」という主張を裏づける証拠物については一度も明示的に言及することなく、ただやみくもに「被告は原告の事実上の上司だった」というお題目を唱えていただけなのである。
 
 ただ一度だけ被告側がこの文書の一部分に言及したことがある。それは10月31日の本人尋問の時であるが、太田三夫弁護士がこの文書の「※ 財団事務局組織等規程の業務課、学芸班に所属する司書、研究員の上司は、規程の定めにかかわらず学芸主幹とする」という箇所を読み上げ、亀井志乃に対して
「ここにいう研究員とは誰ですか。端的に言ってください。」と尋問した。だが、亀井志乃から「この「※」印の意味がはっきりしないので、判然とは申せません。」と突き放されてしまった。
 そこで、太田三夫弁護士は寺嶋弘道被告に対して同じ箇所を読み上げ、
これを素直に読む限り、あなたをヘッドにして、鈴木さん、阿部さん、岡本さん、亀井さん、こういう方々が、いわゆる学芸班を組織するよと、こういうふうに読めるんですが、そういうことでしたか」と尋問し、被告の寺嶋弘道から「はい、そのとおりです」という返事を得た。
 太田三夫弁護士は自分の誘導尋問に被告がうまく乗ってくれたことに安心したらしく、「財団法人北海道文学館事務局組織等規程の運用について」に関する尋問を打ち切ってしまった。要するに
「あなたをヘッドにして、鈴木さん、阿部さん、岡本さん、亀井さん、こういう方々が、いわゆる学芸班を組織するよ」と読むことができるという、たわいない事柄を確認しただけであり、だからどうなんだ? 亀井志乃が「はい、そのとおりです」と肯定したのならばそれなりに重い意味を持ってくるだろうが、被告の寺嶋弘道と一緒に「素直に読めば、こういうことになりますよね」と相づちを打ち合ったところで、クサイ芝居を演じただけの話じゃないか。ここで打ち切ってしまっては、太田三夫弁護士と寺嶋弘道被告が「被告は原告の事実上の上司だった」と主張したことにはならない。つまり、法廷の審理における主張にはなっていないのである。
 
 他方、亀井志乃は、仮に「財団法人北海道文学館事務局組織等規程の運用について」が「被告は原告の事実上の上司だった」という主張の裏づけのつもりだったと仮定しても、「財団法人北海道文学館事務局組織等規程の運用について」は手続き的にも内容的にも問題があり、被告側の主張の根拠となりえないと、法廷の審理において繰り返し主張してきた。
 
 そうである以上、田口紀子裁判長はまず法廷の審理において正当に主張された、亀井志乃の主張の取り上げ、これを吟味し、もし彼女の主張が当を得ていないと判断したならば、それを明示すべきであっただろう。
 だが田口紀子裁判長は、きちんとした手続きを踏んで正当になされた亀井志乃の主張を取り上げることをしなかった。
 亀井志乃は太田三夫弁護士が言う「素直な」読み方に関しても、「最終準備書面」で批判している(「北海道文学館のたくらみ(54)」参照)。だが、田口紀子裁判長はそれも無視してしまった。
 そして田口紀子裁判長は、法廷の審理(「準備書面」や「陳述書」を含む)においてただの一度もきちんと主張することをしなかった被告には極めて好意的に、「財団法人北海道文学館事務局組織等規程の運用について」を、
組織規程にかかわらず、学芸班に所属する司書、研究員の上司は、北海道教育委員会から派遣された学芸主幹とする旨を定めた」ものと判断してやったのである。
 
○ウーソ、ウーソ、カーワウソ
 もう一度言えば、被告は、「財団法人北海道文学館事務局組織等規程の運用について」との関連において、「被告は原告の事実上の上司だった」と主張した事実はなかった。また、「財団法人北海道文学館事務局組織等規程の運用について」という文書自体、手続き的にも内容的にも違法なものと言うしかない。
 にもかかわらず、被告側は相変わらず「被告は原告の事実上の上司だった」を繰り返している。それならば、寺嶋弘道被告はそう主張し得る権限について、「任命権者の許可を受けた」のだろうか。亀井志乃はその点を確かめるために、10月31日の本人尋問で、直接寺嶋弘道被告に訊いてみることにした。
 その際の寺嶋弘道被告の返事は支離滅裂、しどろもどろ。その辺の様子は裁判所の記録(被告調書)に活写されており、亀井志乃が「最終準備書面」で引用している。是非読んでもらいたい(「北海道文学館のたくらみ(48)」参照)。寺嶋弘道被告の証言の中には、北海道教育委員会の教育長や、「文化・スポーツ課」の管理職の責任が問われかねない発言もあり、もし北海道教育委員会の関係者が彼の「尋問調書」や、彼の証言を分析した亀井志乃の「最終準備書面」を手にしたとすれば、かなり慌てふためいたことであろう。
 
 その証言の中には、一読して「まさかそれはないだろう」と、直ちにその嘘を見抜くことができる発言も混じっていた。
 寺嶋弘道被告の確かな証言によれば、平成18年4月1日、道立文学館へ出るようになってから、4月18日までの間に、駐在道職員3名と財団の業務課学芸班2名との「指揮命令系統」について、毛利館長と
「20日近く、そのことを……議論をしていた」のだそうである。
 寺嶋弘道は4月1日、職員として初めて道立文学館に顔を出したらしいが、駐在道職員の学芸主幹として正式に紹介されたのは、4月4日の着任式の時だった。なぜそうなったかと言えば、毛利正彦文学館長(当時)は非常勤の嘱託であり、4月1日(土)と2日(日)は非出勤日、3日(月)は休館日。そこで毛利館長が出勤する4日(火)に着任式が行われたのである。
 ということから分かるように、たとえ寺嶋弘道学芸主幹が毛利館長の出勤日にはかならず「議論」したとしても、4月4日から数えて18日(火)まで、「議論」できる可能性があったのは10日足らずだった。そもそも4月に着任してから4月18日までの間に、
20日近く、そのことを……議論した」なんて証言すること自体、今時の女子高生ならば、「うっそー、ありえない!」と声を張り上げ、最近リバイバルを果たした、ギャグ・アニメの傑作『ヤッターマン』シリーズなら、川獺が3匹、顔を出して「ウーソ、ウーソ、カーワウソ」とハモるところだろう。これを名づけて、嘘カワウソと呼ぶ。
 法廷における偽証として、これほど明らかなものはないはずなのだが、田口紀子裁判長の「判決文」によれば、
被告に虚偽の陳述があったとまで認めるに足りる証拠はない」(25p)。
 
 すごい裁判だったなあと、改めて感じ入ってしまったが、その「判決文」の全体から見れば、こんなのはまだ程度の軽い、序の口でしかない。
 もちろん検討はまだまだ続く。

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