北海道文学館のたくらみ(1)
パワー・ハラスメントと揉み消し
○問題の概要
北海道文学館では現在、常識では考えられない不当なことが行なわれている。
道立北海道文学館のTという50歳台の学芸主幹が、女性の嘱託職員に対して、侮蔑的な言動による、執拗ないやがらせを続けた。嘱託職員はついに堪りかねて、これは〈人権侵害のパワー・ハラスメントに当たる行為ではないか〉と、Tに対してだけでなく、神谷忠孝理事長や毛利正彦館長、平原一良副館長、K業務課長にもアピールした。これだけでも無視できない、――無視してはならない――大きな問題であるが、神谷以下の幹部たちはその問題をまともに取り上げることをしなかった。その代わりに、毛利正彦の口を通して、被害を訴える嘱託職員の解雇を通告してきた。
いわば加害者のTのほうを庇い、嘱託職員を文学館から排除してしまう形で、問題の揉み消しを図ったのである。
○「「芸術」の見え方」との関係
私はこれから暫く、この問題に集中するつもりであるが、以前から私は「「芸術」の見え方」というタイトルで、和田義彦の盗作疑惑や、「芸術」をめぐる美術館館長や学芸員の言説の問題を取り上げてきた。だが、10月8日に、「「芸術」の見え方(3)」を載せたまま、その後、中断している。
もちろん中断するつもりはなかったが、韓国の二つの大学が11月と12月に、相継いで私の『「小説」論――「小説神髄」と近代―』と、『明治文学史』の翻訳を出版し、記念の学会を開いてくれた。この上なく名誉なことであり、私はそれに応えるべく、講演原稿の作成に集中していたのである。この二本の講演原稿は、年が明けたら、なるべく早いうちに私のホーム・ページ「亀井秀雄の発言」に載せたい、と思っている。
その他、ケンブリッジ大学から共同執筆で出版する『日本文学史』の私の担当「20世紀前期の文学」の最終的な完成稿を作る仕事があり――その基本構想は2005年4月、私のホーム・ページに載せておいた、――右文書院から出る論文集の原稿の仕事があり、なかなか「「芸術」の見え方」にもどることができなかったのである。
ただ、今回の問題と、「「芸術」の見え方」で取り上げてきた問題とは、必ずしも無関係ではない。Tという北海道文学館の学芸主幹は、これまで長く道立近代美術館の学芸員を勤め、工藤欣弥と共著の形で『三岸好太郎――夭折のモダニスト』(北海道新聞社、昭和63年4月)という、新書版の冊子を出しているからである。
Tの執筆は全165ページのうち、P.75からP.129までの、約55ページ。400字の原稿用紙に換算して54枚程度。論文とも言えぬ、入門的概説にすぎないが、それにもかかわらず、いや、そうであればこそ、美術館学芸員的な言説パターンが顕著に現われている。
とするならば、彼が書いたものにまで関心を拡げることで、文学館と美術館に共通する問題を引き出すことも可能だろう。
Tは今年度(2006年度)の4月、道立近代美術館から道立北海道文学館へ移ったわけだが、北海道の教育委員会はどういう人事構想をもってこの移動を決めたのか。その点にも問題があるかもしれない。
○毛利正彦館長という人物
ところで私は、T学芸主幹、K業務課長と書いて、実名を明かさなかった。しかしもちろん、事態の成り行きによっては、彼らの名前や、そのほかの文学館の職員、そしてハラスメントをアピールした嘱託職員の名前を出すつもりでいる。
それに対して、神谷忠孝と毛利正彦と平原一良の3人については、今さら名前を伏せておくまでもないだろう。彼らはそれぞれ、北海道文学館の理事長や館長や副館長の肩書きで色んな会合に出席し、時には挨拶などもし、よく知られた人物だからである。名前を伏せたら、かえって失礼かもしれない。
私は神谷忠孝理事長と平原一良副館長については、その経歴や研究実績を一通り承知している。ただ残念ながら、毛利正彦館長については、その経歴も、文学館長たるべき実績についてもよく知ってはいない。文学館長として、普段どんな仕事をしているのか、それもよく分からない。
ただ一つ、よく分かったことがある。それは、この人は相手の質問には答えようとせず、しかし自分の要求だけは倦まずたゆまず繰り返すことができる、その意味で稀有の執拗さを備えた人物だということである。
私は以前このブログに、「文学館の見え方」という文章を連載した。後にそれをまとめて、ホーム・ページ(「亀井秀雄の発言」)に載せたわけだが、なぜそんなことをしたか。再掲載のための「序文」で書いたように、文学館の関係者の中に私のブログの削除をしつっこく求める人間がいたからにほかならない。その関係者というのが、じつは毛利正彦館長だった。
私は彼の削除要求に対して、あらまし次のように答えた。
《引用》
道立文学館の運営が「惨澹たる状態」にあることは、私が言い始めたことではない。当の文学館が発行した『北海道文学館のあゆみ』のなかで、中村稔が指摘したことなのである。私がそれを踏まえて、一方では運営の惨状と、他方では中村稔の無責任や不見識を批判したわけで、そのこと自体の責任を回避するつもりはない。ただ、惨状を指摘されることが不本意であり、迷惑だと言うのならば、まず中村稔に抗議し、次に中村の文章を唯々諾々と掲載した「北海道文学館のあゆみ」編集刊行委員会の責任を問うべきだ。
それらを不問に附して、私に削除を求めるのは、お門違いというものだろう。
北海道文学館の運動や運営を進めてきた人たちの文学観が、カビの生えたものでしかないことについては、縷々説明をしてある。異存があるなら、反論してくれればいい。(『文学館の見え方』の「再掲載のための序文」より)
しかし毛利正彦館長は決して話題を中村稔の文章や、編集刊行委員会の責任のほうへは持ってゆかない。私が書いた文章について、どの点に誤解や過ちがあり、訂正を求めるのか。それが指摘されれば、私としても対応のしようがあるのだが、彼はそういう問題にも触れようとしない。とにかく話題がそういう方向へ進むことを極力回避しながら、ただただ「文学研究者であり、北海道文学館の理事でもある亀井さんによって批判を書かれるのは、自分たちにとってはなはだ迷惑であり、都合が悪い。だから削除してくれ」の一点張りだった。
どうやらこの人は、他人の言葉を、その意図や論理に即して理解することができない、いや失礼、理解する気持ちがない、その意味でこれまた稀有なほど自己中心的な人物であるらしい。要するに彼の関心は、自分(たち)にとって都合がいいか悪いかだけであって、都合の悪いことは隠してしまうか、それができないならば、排除してしまいたいのである。
彼はそういう一方的な要求を1時間半も繰り返しながら、その間、しきりに「この文学館には外部の人に言えないこともある」とか、「私は文学の素人だから」「文学は私の専門外だから」とかを強調していた。その強調があまりにも度を超えているため、謙虚というより、何かに触れられたくないため、必死に煙幕を張っている感じだった。
数多い文学館の館長のなかには、文学研究者だったわけでもなければ、文学館の仕事に従事してきたわけでもない人がいる。私は何人か、そういう人を知っているが、毛利正彦道立北海道文学館長みたいに臆面もなく文学の「素人」や「専門外」を吹聴している文学館長は本当に珍しい。彼は全国文学館協議会が出している『会報』も読んでいなかった。
○毛利正彦館長とT
道立北海道文学館の館長となる前の毛利正彦は、北海道教育委員会の文化部長だったという。つまり彼は教育委員会を退職して、「道立北海道文学館」の事業を請負っている「財団法人・北海道文学館」の館長となったわけで、名前が似ているため同じ組織内の人事異動に錯覚しやすいのだが、要するに彼は、道職員から財団へ、世に言う「天下り」館長となったのである。それならば、教育委員会の役人時代、それなりの功績があったはずだ。まさか文化部長時代にも「素人」や「専門外」を振り回していたわけではあるまい。そんな疑問が湧いてきて、その点も追々と調べてみたいのだが、一つ言えることは、以前から彼とT学芸主幹とは繋がりがあったらしいことである。
これは北海道の文化施設によく出入りしている人から聞いたことだが、毛利正彦文学館長は道立近代美術館の副館長だったこともあるという。このことから察するに、彼はかつてTと時期を同じくして、道立近代美術館に上司と部下として一緒に勤めたことがあり、多分その縁故で、2006年の4月から自分の職場へ「駐在」してもらうことにしたのではないか。そう推測することができる。
これまた聞くところによれば、毛利正彦館長は4月からTが来ることについて、当時の職員たちに向い、「今度来る人は、平原さんには従順な人なので、大丈夫だ」と太鼓判を捺していたらしい。50歳を過ぎて一番のセールスポイントが「上司への従順」とは、〈情けない〉を通り越して、なんか気の毒な男だな。というより、そんな貧しい基準でしか部下を評価できない毛利正彦という人物に見込まれるなんて、男の生き様としては最低で、最悪だな。
ついそんな同情さえ覚えてしまったが、ともあれそういう点から判断するに、毛利館長と平原副館長とT学芸主幹とは前々から面識があり、Tは平原副館長に対して、毛利館長から「従順」と評価されるような言動を見せていたのであろう。
○文学館幹部職員によるパワー・ハラスメントの黙認
Kという嘱託職員はTの執拗ないやがらせにほとほと困じ果て、10月31日、「去る10月28日に発生した〈文学碑データベース作業サボタージュ問題〉についての説明/及び、北海道立文学館内における駐在道職員の高圧的な態度について」(以後「駐在道職員の高圧的な態度について」と略記)というアピール文を、Tのほか、神谷理事長、毛利館長、平原副館長、K業務課長に渡した。
K嘱託職員はのちに、北海道文学館の理事に宛てて「北海道文学館の来年度の任用方針の撤回とアンケート回答のお願い」(12月13日)というアピール文を送ったが、その参考資料として「駐在道職員の高圧的な態度について」が添えてあった。
それを読むかぎり、K嘱託職員はいささかも感情的な言い方はしていない。T学芸主幹のいやがらせが如何に意図的に行なわれたものであるかを、幾つかの事例を挙げて説明し、次のような結論を導き出しているだけであった。(なお、引用文中のKは、K嘱託職員自身を指している。)
《引用》
(Tが)このような(高圧的な)言い方で自分を特権的に扱う事を、しかも、雇用身分が最も不安定な者にのみ強要することは、きわめて悪質なパワー・ハラスメント(上司の部下に対する言葉や態度による暴力)に相当するのではないか。また、今までKは幾度か他の職員に事情を話し、一方、職員のうちの幾人かも、Kが主幹に上記のような扱いを受けている場面をしばしば見かける機会があった。それにも関わらず、これまで何ら有効な対応もなされてこなかったということは、もしかするとこの〈北海道立文学館〉という組織そのものに、ハラスメントの素地があると言えるのではないだろうか。Kは、そのように考える。
こういう穏やかなもの言いで「結論」を出したのち、K嘱託職員が「要求」したことは、次のように条理に適った、極めて穏当なものであった。
《引用》
○以上の点については、T主幹以下、それぞれの関係者から、反論もしくは別の視点からの意見も提出される事もあろう。また、内容をお認めになるという場合もあるだろう。そうしたご意見・ご回答は、すべて文書の形で、Kにお渡しいただきたい。これは、Kとしても、より正確な記録を残しながら、今後の対応を続けていきたいためである。
例えば、
・Kには、実際これまで、身勝手かつ無責任な行為、またはサボタージュ行為等によって、館の職員もしくは来客に迷惑をかけた例がある(ボランティア時代からを含めても可)
・Kには、多少上司が圧力をかけてでも、その未然防止につとめなければならないような問題的な性癖・行動がみられる。あるいは、明らかに〈普通ではない〉と認められるような異常性がある
というようなご意見がある場合には、是非とも、具体的な事例や証言を添えて、K当人にお渡し下さるよう、切にお願いしたい。
なお、文書でのご意見・ご回答は、11月10日(金)までにお渡しいただきたい。
○もし、上記の〔結論〕に対して、11月10日までに反論等が文書の形で上がらなかった場合には、「当文学館においては、嘱託職員・Kに対するパワー・ハラスメントが行われていた」という〔結論〕に対して、異論が出なかったものと判断させていただくこととする。
だがK嘱託職員によれば、11月10日になっても、T主幹や神谷忠孝理事長、毛利正彦館長、平原一良副館長、K業務課長は回答をしてこなかった。
T主幹は回答期限の前、痔の手術のために入院してしまったらしい。しかし彼は10月31日から入院するまでの間、何日かは出勤していたそうだから、回答する時間的な余裕はあったはずである。入院中はもっと時間の余裕があったはずである。にもかかわらず彼は、自分自身にかかわる問題について一言半句も反論しなければ、意見を述べようともしなかった。ということはつまり、「11月10日までに反論等が文書の形で上がらなかった場合には、「当文学館においては、嘱託職員・Kに対するパワー・ハラスメントが行われていた」という〔結論〕に対して、異論が出なかったものと判断させていただくこととする」というK嘱託職員の言い分を認めたことになる。
神谷理事長、毛利館長、平原副館長、K業務課長の無回答についても、もちろん同様の意味に解釈できるし、またそれが唯一正当な解釈であるべきだろう。
そうである以上、次に彼らが行なうべきことは、当然、パワー・ハラスメントのような人権侵害的な行為を館内から一掃することでなければなるまい。ところが次に彼らが企てたことは、パワー・ハラスメントをアピールした嘱託職員を排除することだった。
言葉を換えれば、彼らはその無回答の態度によって、T学芸主幹のパワー・ハラスメントを黙認し、T主幹を庇うことを企んでいたのである。
更に言葉を換えて言えば、毛利正彦館長から「従順」と評価されたT学芸主幹は、毛利正彦館長や平原一良副館長の陰に隠れて、自分が仕出かしたことの尻拭いをしてもらうことにしたのである。
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