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マス・メディアの見え方(4)

『東亜日報』の記事から
〇驚くべき記事
 昨日(16日)の朝、国連の安保理で、「非難」決議が満場一致で採択されたことを知った。国連憲章第7章への言及はなかったらしい。ほぼ予想通りの結果だった。多くの人にとっても同様だったと思う。

 「だが、細かい文言はテレビでは分からない。検討は明日の朝刊を買ってからにしよう」。そう考えて庭に出た。草取りをしてからシャワーを浴び、その後、インターネットを検索していたところ、『東亜日報』の「発射費用は600億ウォン…6年間の対北支援金は3兆ウォン」(2006年7月11日)という記事を見つけた。すごいことが書いてある。
《引用》
 
5日に北朝鮮が発射した「テポドン2」を含むミサイル7発の製造と発射費用は約600億ウォンにのぼると、軍当局は推算している。外部世界から支援を受けなければ独自生存が困難だと言われている北朝鮮が、このような巨額を空中に打ち上げることができたのは、00年の南北首脳会談以来6年間、韓国の無条件な対北朝鮮支援があったおかげだという指摘が出ている。

 04年10月、北朝鮮最高人民会議の第11期3回会議で公表された北朝鮮の05年度予算は、北朝鮮ウォンで3885億ウォン。これを北朝鮮の公式為替相場(1ドル=150ウォン)ではなく、実際の市場の為替相場(1ドル=3000ウォン)で計算すれば、1億2950万ドル程度だ。今回のミサイル発射に使用した600億ウォン(約6369万ドル)は、1年間の予算の半分に迫る巨額になる。

 これは北朝鮮が、8ヶ月間6者協議に復帰せず資金凍結の解除を求めているマカオのバンコ・デルタ・アジア(BDA)銀行に凍結されている資金2400万ドルの3倍に迫る金額だ。

 一つの国の通貨の、公式の為替相場と、実際の為替相場の間に、何と!! 20倍の開きがある。そんなことがあり得るだろうか。日本の国内で、1ドルは115円だと言われ、そのつもりでアメリカへ行き、115円を出してドルに換金しようとしたところ、5セントにしかならなかった。これは、そんな悪夢みたいな話なのである。

〇矮小な国家予算
 まず私はそのことに驚かされたが、北朝鮮の予算規模にも驚いた。
 もし上の記事が本当ならば――もちろん間違いないと思うが、――北朝鮮の2005年度の予算は1億2950万ドル程度。1ドル115円で計算すれば、148億9,250万円ほどになる。驚くほど少ない。
 ただしこれは、実際の市場の為替相場(1ドル=3000ウォン)で計算した場合であって、北朝鮮の公式為替相場(1ドル=150ウォン)に従って計算すれば、その20倍、2,978億5,000万円となる。その場合でも、国家予算としては信じられないほど少ない。

 韓国の国家予算は、東京都の予算よりもずっと少ない。以前そういう話を聞き、〈ああそういう見方もあるのか〉と、インターネットで調べたところ、確かに韓国の予算は東京都より遥かに少なかった。
 北朝鮮のことは、日本の外務省のホームページに載っていない。不正確な情報で判断するのは危険だ。そう自戒して、憶測は避けてきたのだが、実際にこういう情報に接してみると、想像していたより遥かに少額だった。
 こんな少額の予算で、人口2300万ほどの国家を運営できるのだろうか。

〇長野県との比較
 実際にそれは、どの程度の規模か。
長野県の人口は221万人、北朝鮮の約10分の1なので、これを例に取るならば、平成18(2006)年度の歳入は8,250億円が見込まれている。
 ただしこれは県税のほか、地方交付税その他を含めた総額であり、北朝鮮の国家予算との比較は、むしろ県税に限定したほうがよいかもしれない。そこで、もう一度見直してみると、長野県は平成18年度の県税として、2,151億円を見込んでいる。これが221万人の予算であり、それを北朝鮮の人口に準じて10倍してみれば、2兆1,510億円となる。

 ちなみに、長野県のホームページに「本県と同等の人口をもつ群馬県や栃木県」という言い方があったので、群馬県を調べてみると、人口は201万で、北朝鮮の約11分の1。平成18年度の歳入は7,973億円、そのうち県税は2,210億円だった。この県税を、同じく北朝鮮の人口に準じて11倍すれば、2兆4,310億円となる。

 北朝鮮の国家予算を、公式レート換算で2,978億5,000万円と見るか、実際の交換比率の換算して148億9,250万円と見るか。額面では大きな開きがあるが、たとえ前者で比較したとしても、人口が10分の1の長野県の県税より、768億5,000万円多い程度。交付税などを含む総額と比較すれば、長野県の半分にも満たない。

〇行政なき国家
 これを別な面から見てみよう。北朝鮮の国家予算が全て国民(「人民」と言うべきかも知れない)のために使われたとして、公式レート計算による金額を2,300万人で割ると、一人につき12,950円程度となる。だが、実際レート計算の場合は、一人につき約648円にしかならない。
 
 同じ視点で長野県の場合を考えてみれば、県税だけで計算しても県民一人につき97,330円を支出することになり、交付税などを合せれば、約3.8倍の370,000万円ほどになる。群馬県の場合は、県税だけで一人につき109,950円となり、交付税などを合せれば、約3.6倍の395,000円ほどになる。
 いかに物価が違うとは言え、この開きは異常なほど大きい。そう言わざるを得ないだろう。。

 しかも長野県や群馬県は軍隊も持たなければ、ミサイルを作っているわけでもない。逆に言えば、北朝鮮はあの少額からピンはねして軍隊を持ち、ミサイルを作っている。これでは、国民のためにインフラを整備する余裕などあるはずがない。
 これは行政なき国家と言うしかなく、国民は自分の知恵、才覚で水や燃料を手に入れなければならないのである。

〇恐るべきダブル・スタンダード
 まるでウソのような話だが、現実に北朝鮮が「国家」として存続している以上、それを可能にするカラクリがあるにちがいない。
 私の見るところ、そのカラクリ一つが、先に紹介した交換レートのダブル・スタンダードなのである。

 北朝鮮の政府が設定した公式の為替相場では、1ドルが150ウォンだが、実際の為替市場では1ドルが3000ウォンで交換されている。
つまり国の中で通用する価値が、対外的には20分の1にしかならない。そういう話になるわけで、たとえば北朝鮮政府から100ドルに相当する給料として、15,000ウォンを貰った人が、実際にアメリカ製品を買いに行ったところ、5ドル相当の物しか買えない。そういう、泣くに泣けない事態が起ってくる。

 日本はダブル・スタンダードではなく、外貨との関係は変動性を取っていて、現在は1ドル115円前後で推移している。もし北朝鮮のような状況となれば、115円が6円以下の価値しかなくなり、大パニックが起るだろう。

 また、外国から見れば、ダブル・スタンダード制の国の通貨ほど怖いものはない。いま私が11,500円で、100ドル相当のアメリカ製品を買い、北朝鮮に持って行って、公式レートで売ったとしよう。このレートに従えば、私は15,000ウォン受け取ることになるわけだが、そのお金でもう一度アメリカ製品を買おうとすれば、5ドルの物しか買えない。つまり私は、差し引き10,925円の損をしてしまうのである。

 そんなわけで、もし北朝鮮と貿易をしたい人がいたとしても、その人は多分北朝鮮ウォンによる支払いを決して望まないであろう。このウォンは、北朝鮮以外の国では20分の1程度しか価値を持たない。そもそも北朝鮮ウォンで支払おうとしても、それを受け取ってくれるお店はほとんどないからである。

〇言語としての通貨
 以上のことを少し抽象化して言えば、〈ある国の通貨が国外で受ける評価は、その国の経済力や経済システムの評価の指標にほかならない〉。

 マルクスが言うように、通貨は言語以前の、あるいは言語を超えた「言語」であって、経済力や経済システムがその「言語」の意味や価値を形成する。ある国の通貨は、この意味と価値をバックに、他の国の通貨との対話(交換または翻訳)関係に入るのである。

 こうして見れば、日本の円がどんなに対話能力の高い言語か――つまりどんなに流通性の高い言語か、――外国旅行を一度でもしたことのある人ならば、すぐに納得するだろう。ついでに言えば、日本国が発行するパスポートもまことに流通性が高い。
 日本人の外国旅行ブームは依然として衰えないが、それはこの二つに支えられているからであって、その意味で日本は決して「孤立」してもいなければ、「蚊帳の外」に置かれているわけでもない。
テレビのコメンテーターたちが、分かったふうな顔をして、日本の「孤立」や「蚊帳の外」を言う。それを耳にする度に、私は、何を根拠にそんなことを言うのか、聞いてみたい気がする。

 この連中、「金が全てではありません。問題は信頼関係ですよ」と開き直るかもしれな。
 〈なるほど、なるほど、では、あなたの出演料や原稿料は、北京政府の人民元か、ロシアのルーブル、あるいは韓国のウォンか、北朝鮮のウォンでお支払いしましょう〉。そう言われたら、この連中、どう答えるだろうか。おそらく「喜んで」と答える人は、滅多にいない。要するに、口で言うほど信頼などしていないのである。
 〈では、円かドルでお支払いしましょうか〉。そう聞かれれば、おそらくヘラヘラと相好を崩してしまう。
 こういう反応が出てくるのも、各国の通貨に対話能力の高低や大小があるからにほかならない。

〇ダブル・スタンダードの悪用
 私は昨日、ここまで書いて中断し、今日(18日)また、改めて書き始めたわけだが、ともあれ、以上の視点からみれば、北朝鮮ウォンの国際的な対話能力がいかに低いか、一目瞭然だろう。
 だが、私の見るところ、それこそが、北朝鮮の政府高官、または指導者層が権力と特権を手に入れるカラクリのネタなのである。

 いま彼らが、国民の一人に150ウォン払って、ある品物を作らせたとしよう。それを国外のマーケットに出して、1ドルで売り、その1ドルを実際の為替相場でウォンに変えるならば、3000ウォンを手にすることができる。
 濡れ手に粟のボロ儲け、これほどウマイ話はまたとあるまい。

 これは単純な例であるが、もしこのボロ設けのカラクリを、政府機関が全機能を挙げて企んだとすれば、どうなるだろうか。
 マス・メディアの伝えるところによれば、北朝鮮はアメリカのドル紙幣を偽造し、覚醒剤を日本に密輸し、マイルドセブンの偽物を東南アジアで売りさばいている。おそらく事実だろうと思うが、こういう悪質な手口で荒稼ぎした巨額な円やドルを、さらに自国の実際の為替相場でウォンに換金するとしよう。天文学的な数字の利益が、政府の懐に転がり込んでくるはずである。

 その金額は公表した国家予算を遥かに上回る。そうであればこそ、あれだけの数の兵士を食べさせ、武器を持たせ、ミサイルを作ることができるのだ。私はそう思う。

 その反面、こういう旨い汁にありつけない、一般の国民にとって、日本の親戚や知人から送られる円やドルがどれほど貴重か、容易に想像できる。まさに「旱天に慈雨」にちがいない。
 そして、もしこの送金システムを仕切っている人間がいるとするならば、その人間は送金の上前をはねて、巨万の隠し財産を作っていることだろう。

〇「貧困」という仕掛け
 以上から二つのことが推定できる。
 一つは、以上の手口で作った金は公表できない、秘密の裏金であり、そうである以上、この金の調達と配分の中枢を握る人間の間から、独裁者や特権階級が生れるのは避け難い。それをめぐって陰湿な権力闘争が始まり、数限りない不正と腐敗が進行してゆく。
 軍の上層部もその闘争に巻き込まれ、または自ら積極的に関与し、かくして軍は独裁者の私兵と化してしまう。

 もう一つは、この金によって、巧妙な恩恵政治が可能になったことである。基本的な生活資材にも事欠く、窮乏状態に国民を追い詰めておいて、ナントカ記念日には、普段手に入らない、ちょっとした贅沢品を支給し、派手なイヴェントを開催する。このように恩に着せながら、日常の煩いを忘れさせ、昂揚した感情に酔わせてやるのである。
 あるいは国家への奉仕と貢献を動機づけるため、「きめ細かい」報償システムを作って、思いがけないほど法外な褒美を与える。
 こうして国内には、将軍様への感謝の言葉が満ち溢れることになるわけである。

 日本のテレビ局はそういう光景を映し、私たちに〈わざとらしいヤラセ〉と印象づけようとしているようだが、私は必ずしもそうは思わない。あの陶酔的な感謝の言葉は、むしろ自発的に口を衝いて出たものと見るべきだろう。
 
〇教師の困惑
 考えてみれば、独裁者やその取巻き、政府機関の上層部にいる人間にとって、これほど旨みのある、オイシイ国家はまたとないだろう。
 こういうカラクリを教えたのは、北京政府やロシアだったかもしれず、もしそうだとすれば、北京政府が北朝鮮の頑なさに困惑しながら、しかし他方、国連の安保理では拒否権発動をちらつかせて、北朝鮮を庇わなければならなかった「苦渋」がよく分かる。独走し始めた教え子の手綱かけに失敗し、朝鮮の現体制を崩壊させてしまえば、明日は我が身、自分たちのオイシイ国家にも累が及んで来かねないからである。
 
 以上、『東亜日報』に触発された感想は、まだ書きたい点もあるが、だいぶ長くなったので、ここで一たん中断し、近日中に再開したい。(2006/7/18)
 

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