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マス・メディアの見え方(3)

三文シナリオと大根役者
〇倒錯した魂胆
 今日は午後から天気が崩れるらしい。午前中は庭に出ておこう。そのつもりで仕度をし、居間に行くと、みのもんたの「朝ズバッ!!」が北朝鮮ミサイル問題を取り上げている。日本のテレビ局は、よほどマゾイストが好きらしいな。

 アナウンサーによれば、「北京政府とロシアが、日米の制裁決議案の対案として、制裁条項抜きの非難決議を提案したところ、フランスとイギリスが賛意を表明し、アメリカも歩み寄りの姿勢を見せ始めた。気がついてみると、日本だけが孤立」。
 そう言えば、先日も別なテレビ局のコメンテーターが、「日本は蚊帳の外」みたいなことを言っていた。この人たちは、何かにつけて日本を「孤立」させ、「蚊帳の外」に置きたがる。不思議な習性だ。

 そこで、みのもんたが、あの形容不可能な顔をことさら歪めながら、国会議員らしい男のゲストに、〈北朝鮮が日本に向けてミサイルを発射した場合、日本には有効に反撃できない様々な制約がある〉ことを確かめ、軍事攻撃に弱い日本の現状を大仰に強調する。
 次に、女のコメンテーターが、まるで示し合わせておいたように、「ですから、北朝鮮が暴発しないように、そこは何とか……ね」と、変にしなしなと相手を宥める手つきをしながら、話を締め括る。

 かくして、〈本題はこれにて一件落着ぅ~〉というわけだが、この番組に限らず、民放の司会やコメンテーターに聞いてみたい。「北朝鮮て、そんなに分からず屋の乱暴者なのか?」。
 何を考えているのか分からない。理屈が通らない。下手に刺激すると、暴発しかねない。だから、「障らぬ神に祟りなし」で行こう。なにしろ日本は国際的に「孤立」しているのだから、北朝鮮が暴れたらお手上げだ。
 彼らが好んで口にする、この種の「良識」は、じつは北朝鮮に対する傲慢な蔑視を隠し持っているのだが、私が不快なのはそれだけではない。北朝鮮のどぎつい軍事的示威行為を、理屈の通らない乱暴者の我儘に見立てる。要するにこれは、北朝鮮のやり方を容認するためのレトリックなのではないか。
 このレトリックで、相手とサド・マゾ関係をずるずると続けて行こうという、その倒錯した魂胆が、何ともおぞましい。

〇団地の新聞事情
 そんなこともあり、今日は新聞を読んでみようと、近くのコンビニで北海道新聞と毎日新聞、朝日新聞、日本経済新聞を買ってきた。
 読売新聞と産経新聞を買わないのは、別に意図があってのことではない。コンビニに置いていなかったのである。

 だいぶ前のことだが、つくづく朝日新聞が嫌になって、今度は読売新聞を読んでみようと思つた。朝日の前は、毎日新聞を取っていたのだが、セールスマンが不快だったので、止めてしまった。更にそれ以前は北海道新聞だったが、学芸部の不誠実に腹を立てて止めてしまった。
 そんな次第で、今度は読売を、と考えたのだが、団地の新聞配達を仕切っている取次店が読売を扱っていない。それじゃあ産経新聞を、と思つたのだが、産経も扱っていない。仕方なく日本経済新聞を取ったのだが、あまりつまらないので、数ヶ月で止め、〈もう新聞を取るのは止めよう〉ということになった。
 高校野球が始まると、春の選抜大会は毎日を、夏の選手権大会は朝日を買いに行く。

 駅のキオスクまで行けば、読売も置いているはずだが、まあ今日のところは先の4紙で間に合わせて置こう。

〇「脅威」をめぐって
 一通り読んでみて、特に教えられる点はなかったが、一つだけ、ああそうだったのかと、自分の迂闊さに気づいたことがある。
 それは北京政府とロシアが提出した「制裁抜き非難決議」案の意図に関することで、前回書いたように、私はその意図を、北朝鮮に恩を売っておくための提案と見ていた。だが、それだけでなく、北京政府とロシアが〈自分たちがやってきた/これからもやるだろう〉ことの免罪符を得ておく意図を含んでいたのである。

 これは「国際連合憲章」の第7章にかかわることなので、念のため毎日新聞の記事を借りて紹介するならば、その内容は次のようになっている。
《引用》
 
平和に対する脅威、平和の破壊または侵略行為の存在を決定し、国際の平和および安全を維持または回復するため、勧告をし、または第41条および第42条に従っていかなる措置を取るか決定する。
 

 この紹介だけでは、何だか抽象的で、一向に要領を得ないかもしれないが、「脅威」をキーワードとして、毎日新聞が整理した「日米案」を見てみよう。「
北朝鮮が核兵器保有を宣言していることを考慮すれば、今回も将来もミサイル発射は国際的な平和と安全への脅威だ」と、北朝鮮の行為を「脅威」として認識している。
 ところが「中露案」は、「
地域の平和と安定に否定的な影響を与えたこと、ミサイル再発射示唆に懸念表明」となっており、「脅威」とは認識していない。
 つまり日本とアメリカは、北朝鮮の行為を「国連憲章」第7章の適用範囲に入ると見ているのに対して、北京政府とロシアは第7章に該当しないと見たのである。

 では、この認識の違いに、どんな政治的な意図が含まれているのか。先に紹介した第7章の「第41条および第42条に従っていかなる措置を取るか決定する」という文言に出てくる、第41条は「経済関係の中断を含む非軍事的措置を加盟国に要請することができる」と規定し、第42条は、それでも不十分な場合は「軍事的行動を認めている」(毎日新聞)。
 もっと簡略に言えば
、「(第41条は)禁輸などの経済制裁、運輸・通信手段の断絶、外交関係の断絶などが可能と規定する。(第42条は)非軍事的措置だけでは十分に対応できない場合、軍事行動に移ることもできるとしている」のである(日本経済新聞)。

 引用が重なって、かえって分かりにくかったかもしれないが、私が重要視したいのは、「非軍事的措置を加盟国に要請することができる」という点である。
 今回の場合で言えば、日本とアメリカの「制裁決議」案が採択されるならば、北朝鮮に対する「
禁輸などの経済制裁、運輸・通信手段の断絶、外交関係の断絶などが可能」となる。それだけでなく、北京政府やロシアに対しても同じく「断絶」などの措置を取るよう「要請することができる」。
 いや、これもまわりくどい。再び端的に言えば、北京政府やロシアは常任理事国の一員である以上、いったん「制裁決議」案が採択されるならば、いわば他の国連加盟国に先立って、「
禁輸などの経済制裁、運輸・通信手段の断絶、外交関係の断絶」などの措置を、率先して実行せねばならないのである。

 北京政府とロシアが「脅威」認識を拒むのは、こういう事態に陥ることを何としてでも避けたいためであろう。
 
 再び毎日新聞の整理によるならば、「制裁の根拠になる国連憲章第7章」に関して、「日米案」は「
第7章に基づき、ミサイル発射を非難」を提案している。だが、「中露案」は「(第7章には)言及なし」。つまり北京政府とロシアは、第7章に拘束される羽目に陥りたくないのである。
  
 そんなわけで、「加盟国に求める行動」に関する「日米案」は、「
ミサイル、大量破壊兵器開発につながる技術・物資・資金などの移転禁止」であるが、それに対して「中露案」は、「ミサイル開発に役立つ物資、技術移転防止のために全加盟国に警戒を要請」となっている。要するに拘束力のない「要請」にとどめておきたいわけだが、ついでに「日米案」にあった「大量破壊兵器」と「資金」の文言も抜け目なく削っている。
 そこが何ともいじましい。

〇ロシアの三百代言
 このような対立点を、朝日新聞は次のように整理している。
《引用》
 
大島賢三国連大使は安保理の協議で、北朝鮮の核兵器開発にふれながら、日本などの近隣地域だけでなく、国際社会全体の脅威という認識を共有するよう呼びかけた。英仏両国も「大量破壊兵器の拡散防止のために不可欠」(ドラサブリエール仏国連大使)と譲
れない一線と認めており、足並みをそろえている。

 
これに対して中国の王光亜国連大使は「地域の平和と安定に否定的な影響」という文言なら受け入れるとし、ロシアのチュルキン国連大使も「ミサイル発射は国際法違反ではない」と反論する。

 ロシアの言い方だと、まるで北朝鮮は自国内でミサイル発射実験をやったように聞える。しかし北朝鮮は、ロシアの領海のすぐ近くの公海に、そこを通る船舶には予告なしに、7発もミサイルを落としたのである。
 すると、あれかな、ロシアの理屈では、隣の住人が我が家の庭に危険物を放り込んだら、これに対しては非難し、抗議してもいい。だが、我が家のすぐ近くの道路に危険物を放り出しても、これは法律違反でない。だから、せいぜい「こんなことを続けると、お互いの関係に否定的な影響が生じますよ」と、懸念の意を表するにとどめるべきだ。そういうことになりそうだな。

 もしあの時、一発でもロシアの船舶に当り、人命の被害を出していたら、それでもロシアはこんな脳天気を言っていられるだろうか。そう考えてみれば分かるように、ロシアは北朝鮮がやったこと自体から目を逸らそうとし、また、国際社会の目を逸らさせようとしている。幸い被害を出さなかった偶然を一般化して、屁理屈を捏ね上げているにすぎないのである。

〇どこが「非難決議」なのか
 同じく朝日新聞の社説「安保理決議 一本化をめざす時だ」によれば、
《引用》
  
いま国際社会がなすべきは、違いを強調することではないはずだ。
  中ロ両国は歴史的に北朝鮮と親密な関係をもつ。とくに中国はいまも石油や食料などを支援している。その友好国を名指しする非難決議を自らつくったことの意味は大きい。それだけ今回のミサイル発射を深刻に受け止めていることの表れだろう。
  この認識こそが、安保理メンバー国を結束させる土台である。北朝鮮にミサイルを二度と発射させず、6者協議への即時復帰を求める。この点でも二つの決議案に大きな開きはない。日本をはじめ関係国は両決議案を一本化する努力を強めるべきだ。

 しかし、いま引用していて、ふと気がついたのだが、「中ロ案」は果して北朝鮮を非難しているだろうか。マス・メディアがこぞって「非難決議」「非難決議」と言っているため、つい私もそういう言い方をしてきたのだが、新聞に紹介されたかぎりで言えば、「懸念表明決議」と呼しかないような、骨抜き案に過ぎない。
 また、新聞を見るかぎりでいえば、北京政府は、朝日が言う「
とくに中国はいまも石油や食料などを支援している」という関係を止めるとは言っていない。「その友好国を名指しする非難決議を自らつくったことの意味は大きい」などと、朝日の社説は安っぽい浪花節を語っているが、あの「懸念表明決議」案はむしろこの関係を持続させるために作ったものと見るべきだろう。

〇落しどころ
 さて、最後に、はああと思い当たったことを一つ挙げておきたい。毎日新聞の社説「中露決議 実効ある行動が問われる」にこんな一節があった。
《引用》
 
北朝鮮のミサイル発射で最も脅威を受けるのは日本である。加えて、国連の甘い対応が北朝鮮を増長させてきたという指摘も過去の経緯を見れば否定できない。当たり障りのない表現で北朝鮮に誤ったメッセージを送ってはいけないという主張は当然だ。
  だが、安保理議長国のフランスが中露案を評価しているのに加え、米国の国連大使も「重要な一歩だ」としている。安保理内では日米などの案と中露案の妥協点を探る修正論議が活発化する見通しだという。そんな中で日中の対立だけがクローズアップされると、「日本は制裁を自己目的化しているのでは」などと受け取られる。日本にとって得策ではない。

なるほどみのもんたの今朝の番組は、この線に沿ってシナリオが出来ていたわけだ。
なんか一種のヤラセっぽさが感じられたのも、このせいだったのだな。しょうがない大根役者たちだ。

 私自身も、リアリズムで考えれば、実際の交渉はこの社説が素描した方向で進み、「脅威」認識をめぐるせめぎあいになるだろう。妥協点は多分、日本とアメリカは第7章への言及を譲歩して、「脅威」の文言を決議に盛り込ませる形となる。
 ただ、もしこれが芝居ならば、日本の代表が次のような見栄を切る場面があっても悪くあるまい。〈子供の使いじゃあるまいし、北朝鮮から「6カ国協議への即時復帰」や「核ミサイル発射凍結の再確認」の確約も取れずに、のこのこ帰ってきて、代案の提出とはおこがましい。順序が逆かしまだョ。顔を洗って出直してお出で〉。
 

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