文学館の見え方(その2)
北海道立文学館の現状
○中村稔の引導
今日(11月2日)、北海道立文学館で、開館10周年の式典があり、続いてリニューアルした常設展が紹介された。いろいろ感想があるのだが、今日配られた『北海道文学館のあゆみ——道立文学館開館10<周年によせて—』という冊子に、目を疑うような文章が載っていたので、感銘醒めやらぬうちに紹介しておきたい。それは、全国文学館協議会会長・中村稔の「北海道立文学館十周年に寄せて」という「お祝いのことば」である。
《引用》
(前略)ただ、収支計算書総括表をみると、必ずしも将来は楽観できない。平成十六年度には、道からの管理運営受託事業費が一億七千四百万余、札幌市等からの補助金が二百九十万円、これらをあわせた収入が一億九千万余だが、そのうち事業収入は三百七十八万円余にすぎない。つまり、収入の中、事業収入は二パーセントに足りない。道庁からの管理運営受託費、補助金も前年度に比べると漸減傾向にある。一方、支出をみると、維持運営費が九千八百万円余、管理費が五千九百万円余、事業費は二千八百万円余である。維持運営費は電気・燃料代等の建物の維持管理の費用であり、管理費は職員費、会議費等である。運営受託費、補助金の減少に見合って、これらの費用も若干節減されているが、目立つのは事業費が前年は三千万円を越していたのに一割近く減少していることである。
これは自治体が直接、間接に運営している全国の文学館にもみられる現象だが、自治体の財政が逼迫し、年々運営委託費等の名目で支出していた助成金が削減されても、建物の維持管理費はほとんど節減できないし、人件費等の節減も限度がある。その結果、事業費が大幅に削られることとならざるをえない。しかも、事業費を年々削減していけば、事業そのものを充実させるのが難しくなることは目に見えている。道立文学館の年報によれば、来館者は年間ほぼ一万五千人ないし二万人の水準で推移しているようだが、全国的にみれば、これはそう恥ずかしい数字ではない。年間五万人を越える来館者のある文学館は数えるほどしかないのが実状である。それでも、事業費支出二千八百万円余に対し事業収入が三百七十八万円、一億九千万円を越える支出に対し来館者が一万五千人から二万人ということからみれば、費用対効果は惨憺たるものといわざるをえない。
中村稔の「お祝いのことば」はこれで終りである。頑張れとか何とか、普通は何か一言、取り繕った言葉を添えて結ぶはずなのだが、どうやらそんなお愛想を言う気にもならなかった。そんな気配が伝わってくる。道立文学館にしてみれば、お祝いの言葉を求めて、引導を渡されたようなものであろう。
○自信の喪失
それでもまだピント来ない人もいるかもしれない。札幌の中島公園にある文学館は、北海道の道立文学館と、民間の財団法人・北海道文学館の二つの面をもっている。その点が少しややこしいのだが、北海道は道立北海道文学館の管理運営を、財団法人・北海道文学館に委託する形を取り、その管理運営に要する経費、年間一億九千万円余のうち、道が一億七千四百万円ほど負担し、札幌市も二百九十万円ほど補助してきた。
それ以外のお金は財団法人・北海道文学館が負担しているわけだが、それは一千万円足らずと見てよいだろう。なぜなら総額一億九千万円余を使い、そのうち事業費に二千八百万円を宛て、そうして三百七十八万円ほどの事業収入を挙げてきた。この三百七十八万円も年間収入の一億九千万円余に含まれているからである。
こうしてみると、「事業費支出二千八百万円余に対し事業収入が三百七十八万円、一億九千万円を越える支出に対し来館者が一万五千人から二万人」という数字は、確かに「惨憺たるものといわざるをえない」。この数字を見て、さすがに中村稔は「文学館という文化事業に、北海道がこの程度の支出をするのは当然ではないか」と言い切る自信を失ったのであろう。
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コメント
お読みくださって、ありがとうございます。
ただ、「shiyou」(資料?)の意味が分りません。もし私が言及した『ガイド 北海道の文学』や『北海道文学館のあゆみ』のことでしたら、私の手元には1部しかありませんので、お送りすることができません。恐れ入りますが、北海道文学館(札幌市中央区中島公園1-4)にお問い合わせ下さい。
4月16日
投稿: 亀井秀雄 | 2006年4月16日 (日) 09時50分