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選挙結果の見え方

○北海道10区の結果

昨日(11日)の衆議院選挙で、私の住む北海道10区は、次のような結果となった。(『北海道新聞』912日、朝刊)

当選 小平忠正(民主) 109,422

     山下貴史(無所属) 78,604

比例 飯島夕雁(自民)  62,100

     谷 建夫(共産)  17,617

 山下貴史はつい先日まで自民党の議員だったが、郵政民営化法案に反対したため、公認を得られなかった。

飯島夕雁の「夕雁」は「ゆかり」と読む。彼女は2週間ほど前まで、東京都の青ヶ島という、人口200名の小さな離島の教育長だったが、小泉自民党執行部の「刺客」公募に応じて、恐らくこれまで縁も夕雁、いや失礼、ゆかりもなかった北海道10で立候補した。得票は山下より1万五千票ほど少ない、第3位だったが、比例代表の1位にランクされていたおかげで、当選したわけである。

○北海道10区と青ヶ島

北海道10区は、空知地方から留萌地方に及んで、40近い市町村を含み、その広さは本州の1県に匹敵する。おそらく日本で最も広い小選挙区であり、札幌のベットタウン化した地区と農業地帯、さらに漁業地域、旧炭坑の過疎地帯と、利害が複雑に錯綜する地域事情を抱えている。飯島夕雁は人口200の青ヶ島から来て、その広さと複雑さに驚いただろうが、しかし案外、「青ヶ島に較べたらずっと便利じゃありませんか」と、比例代表1位のランクに安心して、郵政民営化を説いてまわったのかもしれない。

念のため、インターネットで「青ヶ島 郵便局」を検索してみたところ、青ヶ島は銀行がないため、お金の管理は郵便局に頼るしかない。銀行がないのだから、もちろんキャッシング・カードなんて役に立たない。郵便局にはATMがあるが、日曜日は使えない。宅配のシステムも及んでいないから、郵パックが頼みの綱。そういう所らしい。

つまり郵便局がなければ暮らしは成り立たないわけだが、もし郵政を民営化しても、政府が責任をもってこれらの機能を確実に残す、あるいはもっと便利にする。そういう固い約束を基に、彼女は青ヶ島を去ったのであろう。

もしそうでなかったならば、「政治家」としてはなはだ無責任なことになる。いや、はなはだ無責任に/な政治家を選択したことになる。

○「刺客」成功の得失

ともあれ彼女は比例1位のランクだから、まず当落を気に病む必要はなく、山下貴史の票を食って、落選させる役割を果たした。逆に山下貴史の側から見れば、政治の経験もなく、地元の事情にも通じていない「くノ一」にしてやられてしまったわけだが、もう一人、貧乏くじを引かされた政治家に、北海道7区の北村直人がいる。彼は小選挙区で、民主党の仲野博子に1万票足らずの差で破れ、比例代表のポストにも手が届かず、落選の憂き目を見てしまった。

こうして北海道内に限って言えば、自民党は郵政民営化の反対派を追い落とすため、一人の未経験な「刺客」と引き換えに、ベテラン議員と、もともとは自民党寄りだった中堅議員の二人を失ったのである。

○見方の見え方

 小泉執行部の選挙手法の「功罪」については、また違う視点と論理で評価しなければならない。だが、少なくとも「自民党にとっての得失」はこのような見方で捉える必要があるだろう。

 小泉執行部の選挙手法のパラドックスは、仮に「刺客」手段が100%成功したとしても、自民党議員の顔ぶれを入れ替えるだけで、議席数を増やすことにならない点である。

 もちろんこれは初めから承知だったであろうが、実際にふたを開けてみたら、いわゆる造反議員の半数近くが当選している。単純計算すれば、議員総数を減らしたことになり、失敗なのである。

 

 それにもかかわらず、自民党は40以上も議席を増やした。理由は単純で、民主党が60以上も議席を吐き出したからにほかならない。

 なぜこういう結果になったのか。自民党のスペア以上の存在感を、民主党が持っていなかったからだと思う。もっと端的に言えば、国民の目に、スペアのほうがかえって脆弱に見え、恐くて取り替える気にならなかったのである。

 そんなふうに思いつつ、『北海道新聞』をめくっていると、「作家・猪瀬直樹氏の話」と、「「アイドル政治家症候群」の著書がある臨床心理士矢幡洋氏の話」という二つの談話記事が載っていた。猪瀬直樹の「自民内の“政権交代”」という意見は、要するに分かったふうな党内事情論を一歩も出ていないが、矢幡洋の「単純な主張を支持」はもっとひどい。

今回の選挙はオリンピック時の国民の熱狂ぶりに近く、エンターテイメントとして終った。その中で小泉首相の郵政一本やりの主張が支持された。昔は単純なスローガンは疑いの目が向けられたと思うが、今はひたすら分かりやすさが求められる。複雑な思考ができなくなっている。社会全体に一種の「知的衰弱」がある気がしてならない。

 選挙結果も恐いが、こういう意見も私には恐い。この矢幡洋という人がどんな所に住み、何を見て暮らしているのか、私は知らない。ただ、私の知るかぎり、国民は熱狂などしていなかった。熱狂していた(振りをしていた)のは、マスメディアだけではないのか。ヤラセめいた映像を適当に編集して、「激戦区の過熱振り」を報道する、と見せかけながら。

 小泉執行部は明らかにそういうマスメディアの手口を計算に入れていたが、それを批判もせずに受け容れて、現象を「ひたすら分かりやすく」単純化し、「知的衰弱」などというありふれた現代人批評に収斂させてゆく。そういう「心理士」と国民のどちらが、「複雑な思考」に耐えられなくなっているか。私には前者としか思えなかった。

 

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コメント

こんばんは。
北海道と沖縄はかなり本土(!)と違った状況だったようですね。首都圏は雪崩を打ちました。
>臨床心理士矢幡洋氏
こういう人たちがまともでないのは、普通(ここは難しいのですが。常識を持った方々です。)の国民はよく分かっています。
それから、小泉首相を含めてそんなに変なことやってないですよ。マスコミが愚か、「衆愚」だったということではないでしょうか。
もう一つ。女性が政治の前面に出てくるのは、こういう場合しかなかったのではないでしょうか。
婦人参政権は敗戦前に政府の官僚は、ほぼ決めていたと言われています。しかし、銃後で戦争に貢献したことが婦人参政権の根拠になりました。これは歴史的な事実で、今回の女性議員の当選もその文脈で考える必要があると思います。マスコミの言い方は、今回戦った女性たちに無礼だと思います。
マスコミの体質が窺われます。内部は、差別、セクハラ横行ではないですかね。
失礼いたしました。

投稿: 花風病夫 | 2005年9月13日 (火) 22時58分

花風 病夫様

事柄が婦人参政権にまで及ぶとは思いませんでした。虚を衝かれた感じです。
でも、何だか「雀、海へ落ちて蛤となる」といった感じがしないでもありません。
9月15日

投稿: 亀井 秀雄 | 2005年9月15日 (木) 08時05分

ご無沙汰しています。ブログ開設おめでとうございます。じつは、亀井先生のブログ開設は、まったく知りませんでした。
これからチョコチョコ寄らさせて頂きますので、よろしくお願いします。

投稿: 西村幸祐 | 2005年9月16日 (金) 02時52分

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