甲子園・2006年夏(12)
ニュー義経誕生
○駒沢苫小牧 準優勝!!!
今朝、新聞を買いにコンビニへ行ったところ、どの新聞も一面トップで、でかでかと「駒沢苫小牧 準優勝」をアピールしている。あの~、昨日の決勝戦で勝ったのは、たしか早稲田実業という高校だったはずですよネ……。レジのおばさんに、思わずそう確かめたくなるような扱いだった。
さすがは北海道版の新聞だ。
朝、テレビを見ると、東京ではどの新聞も、一面トップで早稲田実業の優勝を伝え、斉藤投手が高々と両手を挙げた、歓喜の瞬間の写真が大きく載っている。
私たち家族は早くそれが見たくて、私がコンビニまで自転車を走らせたわけだが、買ってきた新聞を見て、「あら、そうなの……。でも、もちろん総集編の雑誌には斉藤君の写真、出ますよネ」。そう言ったきり、それ以上読もうとしない。
○北海道版の偏頗な扱い
念のために、朝日新聞と毎日新聞の扱いを紹介しよう。
朝日の一面は、まず大きく「駒大苫小牧 準優勝」と打ち出し、両チームの選手が試合終了後、握手しようと歩み寄る場面の写真を掲げて、その下に小さく「4-3、早実が初V」。
スポーツ関係の欄では、第17面に88回大会の総評を掲げ、次の見開き2ページの右側、第18面は「駒苫闘志貫徹」、左側、第19面は「早実鉄腕伝説」を載せて、いわば対等の扱い。ただ、第18面の写真はモノクロ、第19面の写真はカラーを使う形で、優勝チームへの敬意を表現していた。
だが、その他、第28面、29面、30面、32面、33面は、大半が苫駒関係の記事で埋められている。
まるで世紀の大ニュース並みの扱いだった
さらに8月21日付けの号外が挿んであったが、横に大きく「駒大苫小牧 準優勝/73年ぶり 3連覇ならず」。その下に、6回表、ホームランを打った三谷がガッツポーズをしながら1塁ベースを回るところを、正面から写した写真を載せていた。その写真の右側に、縦書きで、もちろん「駒大苫小牧 準優勝/73年ぶり 3連覇ならず」よりはずっと小さい活字で、「再試合、早実に敗れる」。
毎日の場合、一面トップは、まず縦書きで「早実 悲願初V」とあるが、それを押さえつけるように「駒苫3連覇ならず」の大きな文字が、横書きで並ぶ。その下に「優勝を決め、両手を上げて喜ぶ斉藤」の写真が小さく、それより5,6倍大きい、「戦いを終え、記念撮影で笑顔を見せる早稲田実・斉藤、駒大苫小牧・田中ら両チームの選手たち」という集合写真が掲げてあった。
さらにスポーツ関連の見開き2ページでは、右側第16面は「駒苫 輝きは金色」という見出しの記事で、写真はカラーだった。ところが、左側第17面は「早実 頂点は夢色」と、訳の分らない見出し、おまけに写真はモノクロ。
小見出しも、第16面は「逆転男、不屈の2ラン」と中沢1塁手を讃え、「田中燃焼、涙なし/春辞退 乗り越え 気迫の熱投742球」とカッコがいい。それに対して、第17面は「エース好投の陰にいつも白川」とキャッチャーに照明を当て、また、「会心先制打 末っ子の底力」とレフトの船橋を取り上げいた。それはそれで結構なのだが、この試合に関するかぎり、斉藤の健投に言及しないのは、片手落ちと言われても仕方あるまい。
何だか悔しさがにじみ出ている感じで、よほど駒苫に肩入れしていたのだろう。
そして第21面、22面、23面、24面、25面は、これまた駒苫関連の記事ばかり。ただ、さすがに気が咎めたらしく、25面に申し訳程度の「悲願の夏制覇早実/「王さんのために」偉大な先輩の励ましが後押し」という小さい記事を載せていた。
多分これが、マスメディアに反映した道民感情なのであろう。
○駒苫3連覇に託された夢
その理由、分らないでもない。
今大会の一つの話題は、「駒苫の3連覇なるか」だった。このこと自体、高校野球ファンにとっては大きな関心事だったが、駒苫ファン、特に北海道の駒苫ファンにとっては、単なる3連覇以上の意味があったからである。
昨年の夏、駒苫は2連覇を達成し、誰しもその「偉業」に感歎したが、思いがけず、大会直前の「不祥事」が明るみになって、高野連は駒苫の優勝を取り消すべきではないか、いや、駒苫のほうが自ら責任を取って、優勝旗を返上すべきだはないか、などの議論が巻き起こった。
高野連には高野連の判断基準があるらしいのだが、それが十分に説明されないまま、駒苫にはお咎めなしの結果となった。そのため、勝てば官軍の論理や、「頑張った選手には責任がない、それなのに優勝を取り消すのは、選手が可哀そうだ」という心情論が容認された形となり、後味の悪い結末となってしまった。
ともあれ、これはこれで落ち着いたかに見えたのだが、困ったことに、今年の春の選抜大会の直前、また駒苫が「不祥事」を起こした。さすがにこの度は「知らぬ顔の半兵衛」を決め込むわけにもゆかず、駒苫は選抜の出場を辞退することになった。
残念だが、これはやむを得ない。そう思った北海道の駒苫ファンも多かったようだが、ただ、駒苫は前年秋の神宮大会でも、決勝戦では早実を破って優勝している。その実力を以てすれば、選抜大会で優勝し、夏春連覇の「偉業」を達成するのも夢ではないのではないか。そう考えて、諦めきれない人も多かっただろう。
今春の選抜大会では、横浜高校が圧倒的な強さで優勝したが、それを「暫定一位」と呼ぶ人も多かった。駒苫の出ない大会の優勝なんて、優勝の名に値しない、という意味である。駒苫ファンというよりは、むしろ横浜高校嫌いの人間が、横浜の優勝にケチをつけるために駒苫を引き合いに出す。そういう面もあったと思うが、どこかでそれは駒苫の選手や、駒苫ファンの自負心をくすぐったはずである。
つまり、それやこれやが重なって、駒苫ファンの道民は、苫駒の3連覇に、駒苫の汚名返上と、自分たちのフラストレーション解消の願いを籠めていたのである。
最近の北海道は、知床の世界遺産登録や、旭川の旭山動物園の大ヒットなど、明るい話題がなかったわけではない。だが、全体的に経済的な基盤が落ち込み、カード破産すれすれの状態に喘いでいる。
その意味では、北海道の駒苫ファンだけでなく、北海道の人の多くが、たとえ束の間の喜びであったとしても、駒苫の3連覇に、北海道の底力を実感したかった。そういう夢もあっての大声援だったと思う。
○立場の転倒
その意味で今年の駒苫は、まさに「道民感情」化した夢と期待を担った若者集団だったわけだが、全国の高校野球ファンのなかにも、夏の大会3連覇という「奇跡」を期待する人が多かっただろう。
それはアナウンサーや解説者の言葉の端々からもうかがうことができた。
それは一種の判官贔屓にも似たフィーバーを感じさせたが、さて、決勝戦、あと1勝で奇跡の3連覇という試合を、延長15回戦っているうちに、俄かに風向きが変わってしまったのである。
この試合、誰が見ても互角の条件とは言えなかった。
駒苫は2回戦から登場して、これが5試合目だが、早実は1回戦の第1日から戦い始めて、これが6戦目。しかも駒苫は準々決勝の組み合わせの日程に恵まれて、田中は2連投で済むが、早実の斉藤は3連投となる。その上、田中は試合途中の登板もあり得たが、斉藤は全試合・全イニング、一人で投げ抜いてきた。
明らかに早実には不利な、この条件の違いから、高校野球ファンの判官贔屓的な感情は早実のほうに傾いていったわけだが、延長戦の回が進むにつれて決定的になっていった。
駒苫は、まるで五条の橋の弁慶みたいに、「あと一本で千本だ」とばかりに挑みかかる。ピッチャーの田中がまた、荒法師にうってつけの顔をしていた。ところが早実の義経・斉藤は、いささかも動じた気配がなく、涼やかな顔でマイペースの投球を続け、相手を寄せつけない。整った面立ちが、ますます凛々しく見えてくる。
私の家族はごく素朴な地元贔屓で、ずっと駒苫を応援してきたのだが、この試合を見ているうち、次第に早実に肩入れをし始め、延長15回、引き分けで終った時は、「せっかく斉藤君が15回の表、気合を籠めて本間選手を3振に討ち取って、さあこれで早稲田の負けはなくなった。そんな絶好のお膳立てを作ったのに、早稲田のバッターったら、田中の球を芯でとらえて鋭くはじき返すこともできない。ポコンなんて打ち上げてしまって……」。そんなふうに、すっかり早実寄りになってしまっていた。
試合を見ているうち、このように早稲田実業の判官贔屓に変わった人は、全国はもちろん、北海道のファンのなかにも多かっただろう。
そんなわけで、昨日の再試合は、観ている人の7割以上が早稲田実業に応援していた。そう私は推測している。もちろん私は初めから早実贔屓だった。
そして、これまた私の推測によれば、以上のような事情があったればこそ、北海道版を組む新聞の編集者たちは、自分たちも手を貸してきた「道民感情」的フィーバーをなだめるため、あのローカルな紙面を作らざるをえなかったのである。(2006年8月23日、午前0時5分)
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