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甲子園・2006年夏(10)

決勝戦・感動の余韻のなかで

○早実の斉藤に軍配 

 駒大苫小牧と早稲田実業との決勝戦は、延長15回を戦って、11のまま決着がつかない。明日、再試合することになったが、今日の主役は誰が見ても早稲田の斉藤だろう。

 駒苫の田中は2連投となったが、昨日の準決勝は途中から登板、今日も同様だった。それに対して早実の斉藤は、駒苫より1試合多い上に、準々決勝から3連投、しかも全イニング投げている。

常識的に見て、駒苫の優位は動かないところだったが、早実の斉藤は不利な条件を集中力に変える精神的なパワーを持っているらしい。私が彼の投球を見るのは、これが3試合目だったが、今日が一番コントロールがよく球威もあったように思う。

 延長15回表、2アウト、駒苫の4番打者の本間に対してストレート勝負、147キロの表示に球場全体がどよめいた。

○斉藤と前橋高校の松本

 2chを見ていると、〈斉藤はPL時代の桑田に似ている〉という意味の書き込み目につく。そうかな? おそらくユニフォームの印象もあるだろうが、私は、体型や面立ち、雰囲気などの点で、完全試合をやった前橋高校の松本を思い出した。

 春夏の大会を通じて、初めて完全試合。テレビや新聞でも大きな話題となり、メディアの追っかけが始まったが、松本の応対がクールだった。「ずいぶん冷静なんですね」。そういう質問に対して、松本は少しはにかんで、「いえ、冷静を装っているだけで……」。あの表情や、応対の仕方を含めて、私は松本に似たものを感じた。

 松本の前橋高校は、完全試合の次に福井商業を対戦し、140で大敗した。「なあんだ、完全試合なんてマグレじゃないか」。そういう声もあったが、春の関東大会では決勝まで残り、マグレでないことを証明し、クレバーな投球術を賞賛された。

松本は記者団の質問に答えて、「これで完全試合の領収書が書けたように思います」。この当意即妙の答えが、また話題になった。

○桐生の獏沢クン

この関東大会で優勝したのは、同じ群馬県の桐生高校だったが、このチームには木暮という好投手と、阿久沢という強打者がいた。

この年(昭和53年)の春の選抜大会では、前橋とアベック出場し、ベスト4まですすんだ。夏の第60回大会にも出場し、優勝候補に挙げられたが、2回戦で県立岐阜商業に30で敗れた。

一回戦で膳所高校に180と大勝し、阿久沢に気負いが生れたのだろう23度と、桐生の1,2番がチャンスを作り、阿久沢に廻すのだが、阿久沢が大振りして凡打ばかり、結局1点も取れなかった。この選手は一人で皆の夢を食ってしまったな。私たち家族はそんな理由で、彼に「獏沢(ばくざわ)」という異名を進呈した。

○好漢の条件

 阿久沢は群馬大学へ進んだが、木暮は早稲田大学へ進み、投手として活躍した。彼はルックスがよく、その上バッティングにも非凡なものがあり、闘争心に富んでいた。

 早慶戦では、ピッチャーにもかかわらず、無謀にも本塁に猛烈なヘッドスライディングをかけ、ブロックするキャッチャーの膝に頭を強くぶっつけた。キャッチャーと言い合いとなり、主審が間に入って事なきをえたが、その後の木暮の様子がどうもおかしい。気持が昂揚しているらしく、ハイは言動が見える。

 実はあの激突で、彼は脳震盪を起していたのだが、本人はそのままプレーを続け、チームメートの誰も気がつかない。試合は早稲田の勝ちで終ったのだが、木暮はしきりに「どうなった、俺たち勝ったのか?」と仲間に訊く。そこでチームメートは木暮がおかしいことに気がつき、あわてて医者に見せた。翌日の新聞に載った木暮の談話によれば、「あの激突のあとのことは全く記憶にありません」。

 ラグビーの試合にも稀にあることだが、頭を強く打った後、無意識のままプレーを続けていたのである。

 その試合で、早稲田の監督は、コントロールの定まらなくない木暮にじっとしていられなかったのだろう、ベンチを出て、マウンドへ向かった。だが、インフィールドのラインを越える手前で、マウンド上の木暮と何か一言、二言、言葉を交わし、そのままベンチへ引き返してしまった。

 勝利監督のインターヴュで、アナウンサーからそのことを訊かれ、「いやあ、あの時、彼がマウンドから、『監督、僕は男になります!!』って怒鳴るんですよ。それに気圧されたってわけじゃないんですけどね、それじゃもう少し任せて見ようかと……」。

 早稲田実業の斉藤も、鹿児島工業との対戦について訊かれ、「僕は男ですから……」。

 

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